bitterharvest’s diary

A Bitter Harvestは小説の題名。作者は豪州のPeter Yeldham。苦闘の末に勝ちえた偏見からの解放は命との引換になったという悲しい物語

Haskellで学ぶ圏論・入門編 写像で扱うことの利点(2)

ぎっくり腰のぎっくりは「びっくり」の訛りのようだ。国や場所によってこの時の表現は異なる。上品でない単語が多く繰り出されるシリコンバレーであれば、”My lower buck is fucked up!”だろう。今まで元気に動いていた状態から全く身動きのできない状態への一瞬の変化を見事に表しているのは、ドイツ語のHexenschuss(魔女の一撃)である。

ぎっくり腰になるということは幸せなことではないが、悪いことばかりでもない。思いがけず一週間以上の休みが手に入り、前から疑問に思っていた「日本の電子産業の凋落」について調べる機会を得た。ソニーに始まりアマゾンまで様々な本を読んで、アップルのジョブスやアマゾンのペゾスは織田信長とよく似ていると感じた。

ぎっくり腰を患っているこの時期に貯めこんでいる本の中に、まだ、ぱらぱらとめくっただけなのだが、近藤麻理恵さんの”the life-changing magic of tidying up”がある(題名がすべて小文字になっているが、間違えて書いたわけではなく、表紙のタイトルはこのようになっている)。ニューヨークタイムズでベストセラーの一位となっている書籍である。片づけ方に関する本なのだが、この本に関する説明の中に、通常は「部屋から部屋へ」や「少しずつ」という方法をとるのに対し、近藤さんは革新的な”category by category”システムに導いたというのがあった。

このブログでもCategory Theoryの説明をしているが、抽象的な数学をさらに抽象化して、その行き着いた先がCategory Theoryであることと、日常的な行為である片付けの究極の方法がCategoryであるという類似点はとても面白い(近藤さんの本に、「毎日がときめく片づけの魔法」がある。文章も絵も詩的な響きを感じさせる楽しい本で、伝え方に革新的な手法を持ち込んでいるように思え、ジュブスやペゾス達と同じようなVisionaryな面を感じた)。

今日も、あまり長いこと座って記事を書くことができないが、前回の続きを紹介する。筋肉の筋のような図は前回の記事では残念ながら出現しなかったが、今回は本格的に表れるのでお楽しみに!

3.二要素の対象から圏への写像

前回は終対象(一要素の対象)から圏への写像を考えた。そこでは、圏の対象が写像の集まりとして写し取られていることが分かった。そこで、今回は、二要素の対象から圏への対象を観察することとする。前回と同様に、5個の要素を対象とする圏への写像を考えると下図のようになる。写像の集まりは、\(5 \times 5\)である。
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上図は少し見にくいので、写像を簡単に説明する。\(f_1\)は\(p,q\)を\(a_1\)に写像している。\(f_2\)は\(p,q\)を\(a_2,a_1\)にそれぞれ写像している。即ち、\(f_i\)は\(p,q\)を\(a_i,a_1\)にそれぞれ写像している。\(g_1\)は\(p,q\)を\(a_1,a_2\)に写像している。\(g_2\)は\(p,q\)を\(a_2,a_2\)にそれぞれ写像している。即ち、\(g_i\)は\(p,q\)を\(a_i,a_2\)にそれぞれ写像している。同様に、\(h_i\)は\(p,q\)を\(a_i,a_3\)に、\(k_i\)は\(p,q\)を\(a_i,a_4\)に、\(l_i\)は\(p,q\)を\(a_i,a_5\)にそれぞれ写像している。

二要素の対象から圏への写像の中で、写像\(f\)が\(p,q\)を\(a_i,a_j\)にそれぞれ写像したとする。この時、元の圏で、\(a_i\)から\(a_j\)への射が\(f'\)であったとすると、\(p\)から\(q\)への射の一つが、\(f'\)を写し取ってると見なすことができる。

この様子をモノイドで見ていくこととする。次のモノイドは、自然数の加算を表している。\(p\)から\(q\)への射は、モノイドでの射を写したものとみなすことができる。
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加法をもう少し明確に表現したモノイドでは以下のようになる。下図では、一部の写像のみを記してある。即ち、図での\(f_i\)は\(p\)を\(i\)に\(q\)を\(i+1\)に写像する。従って、\(f_i\)は元の圏での写像\(+1\)を写し取っていると見なしてよい。図では\(f_i\)以外は記入していないが、実際には沢山あり、その数は自然数の総数の二乗である。
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4.三要素の対象から圏への写像

二要素までの説明が終わったので、次は、三要素\(p,q,r\)の対象から圏への写像を説明する。ここでは、いきなり、加法を明確にした表現したモノイドから説明に入る。
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上記の図で、\(p,q\)を\(i,i+j\)へそれぞれ写像する関数を\(f_i^j\)とする。同様に、\(q,r\)を\((i+j),(i+j+k)\)へそれぞれ写像する関数を\(f_{i+j}^{k}\)とする。

これらの写像は、元の圏での\(+j:i \rightarrow i+j\)と\(+k:i+j \rightarrow i+j+k\)に対応している。

この時、合成関数\(f_{i+j}^{j+k} \circ f_i^j\)は、\(p,r\)を\(i,i+j+k\)へ写像する。即ち、\(f_{i}^{j+k}=f_{i+j}^{k} \circ f_i^j\)となる。これは元の圏での、\(+j+k:i \rightarrow i+j+k\)に対応している。このことから、三要素の対象からの写像を考えることで、圏での関数の合成を写し取ることができる。

ここまでの話をまとめると、圏への写像を考えることで、圏の構造が分からなくても、外側から写し取れることが分かる。