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bitterharvest’s diary

A Bitter Harvestは小説の題名。作者は豪州のPeter Yeldham。苦闘の末に勝ちえた偏見からの解放は命との引換になったという悲しい物語

圏論での積と余積―双対という概念

プログラマーのための圏論 (圏論とHaskell)

5.3 双対という概念

普遍性(Universal Property)は圏論の中では重要な概念である。前回は、始対象と終対象について論じた。対象という言葉は、何かの集まりを表したものであり、抽象的な概念である。対象は、集合であるかもしれないし、グラフのノードの集まりであるかもしれないし、もしかすると、射(関数)の集まりであるかもしれない。対象は物の集まりを一般化したものである。

始対象と終対象はそのような対象の中で特別な性質を持つものである。始対象は入ってくる(Incoming)射がない対象で、終対象は出ていく(Outgoing)射がない対象である(但し、始対象から任意の対象への射、あるいは、任意の対象から終対象への射は、必ず存在して、しかも、ただ一つでなければならない)。冬の弱い日を浴びて作業していると太陽のありがたさをしみじみと感じる。太陽は全てに恵みを与えてくれる始対象ではないかと幻想を抱かせる。それに対して、なんでも吸い込んでしまうブラックホールは終対象ではないかと思えてならない。

積の話をする前にもう少し、始対象と終対象の話をしておこう。それは双対(Duality)についてである。双対は、これからの説明の中でもしばしば出てくるように、数学の重要な概念である。丁度、表と裏の関係にある。表の世界を裏返したものが裏の世界であり、裏の世界を裏返ししたのが表の世界である。始対象と終対象もこれと同じ関係である。始対象を裏返しにすると終対象、終対象を裏返しにすると始対象となる。この時の裏返しは、射の方向を逆にすることである。

始対象と終対象とではどちらのほうが分かりやすいだろうか。始対象という人は少ないかと思うので、終対象を裏返しにして始対象を作ることにしよう。

前回の記事で、次のように終対象の例を示した。
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例に示した圏では、対象は、整数の集まり\(B\)と文字の集まり\(C\)とシングルトン\(A\)、の3個であった。また、射は、整数の集まりからシングルトンへの射\(unit'\)と文字の集まりからシングルトンへの射\(unit"\)、および、各対象での恒等射であった(但し図には整数の集まりと文字の集まりに対する恒等射は省いてある)。

上の図で対象に含まれる要素を描かないようにすると、より一般的に終対象を示すことができる(\(unit',unit"\)も\(f,g\)で置き換えた)。下図のように対象に含まれる要素を描かないだけで、随分と見え方が変わるだろう。図には、対象と射しか含まれないので、圏の表現としては過不足なしというところだろう(以後、このように表現することが多くなるので、具体的な記述があった方がよいと思う人は、その都度、要素を入れて考えて欲しい)。
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さて、上の図で、射の矢印の方向を逆にしてみよう(恒等射は矢印の方向を変えても変わらない)。射の名前は、\(f,g\)をそれぞれ\(f^{op},g^{op}\)とする。以下のような図を得る。
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対象\(A\)に入ってくる射がないので、始対象であることが分かる。このように、始対象と終対象は射の方向を入れ替えることにより一方から他方へと変わる。

ついでに双対の圏も例によって示そう。
今、図のような圏\(\mathcal{C}\)が与えられたとする。
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全ての射を逆向きにして、双対となる圏\(\mathcal{C}^{op}\)を下図のようにえることができる。
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次回は、いよいよ、積の話をしよう。