bitterharvest’s diary

A Bitter Harvestは小説の題名。作者は豪州のPeter Yeldham。苦闘の末に勝ちえた偏見からの解放は命との引換になったという悲しい物語

通常のプログラムをHaskellで記述する(2)

最近、進化心理学の本を立て続けに読んだが、その中で最も優れていると感じたのは、ジョシュア・グリーン(Joshua Green)の『モラル・トライブス』であった。
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グリーンは高校生のとき、弁論部に属していたそうだ。対抗戦の弁論大会で、彼は「功利主義(utilitarianism)」を利用して相手を打ち負かすという戦略を思いつく。功利主義は、ジュレミ・ベンサム(Jeremy Bentham)と、ジョン・スチュアート・ミル(John Stuart Mill)らによって考え出された。これは、「最大多数の最大幸福」を追求する行為や行動が社会的に望ましいとする考え方である。

弁論大会で、グリーンは相手の主張が「最大多数の最大幸福」になっていないことをうまく利用して、連戦連勝を続けた。しかし、あるとき、トロッコの問題を出され(実際に出された問題はトロッコの問題を巧みに変形したものであった)、功利主義の弱点を突かれる。トロッコの問題は二つに分かれている。

一つ目は、「暴走したトロッコが坂道を転がり始める。途中、線路は二つに分岐している。一方の線路では5人が作業中である。他方の線路では1人が作業をしている。分岐点のところにあなたは立っている。そこには線路を切替えるためのスイッチがある。何もしないと5人の方にトロッコは向かう。もし、スイッチを押せば1人の方に向かう。あなたはスイッチを押しますか。」という問いである。この問いに対してはほとんどの人はスイッチを押す方を選択する。

二つ目は、「今度は、線路は一本で、その先には5人が仕事をしている。しかし、途中には橋が架かっていてそこには大きなリュックサックを背負った人がいる。もし、この人を橋から突き落とせば、トロッコは脱線して5人の命は助かる。あなたはこの人を突き落としますか。」という問いである。これに対しては、ほとんどの人は突き落とさないと答える。

前者も後者も肯定した答えは、5人の命を救い、1人の命を失うということで結果は同じである。功利主義の立場から言えばどちらも肯定しそうなものだがそうはならない。グリーンは功利主義では説明できないことに出会って、弁論部から離れることになる。そして、長いこと、功利主義からも離れる。

その後、グリーンは進化心理学の研究を始める。進化心理学は、モラルもチャールズ・ダーウィン(Charles Darwin)の進化論に沿って、自然選択されてきたというものだ。数家族を単位として狩猟採集生活を行ってきた新石器時代においては、血縁関係にある人々が生存できるように(血縁関係にあるものはDNAが類似しているので、このDNAを繁栄させるように働いた)、「私」のモラルを進化させ、農業革命が生じる新石器時代においては、同一出自集団の人々が生存できるように、「私たち」のモラルを進化させてきたとグリーンは言う。そして、「私たち」のモラルの進化は最近まで続く。

現代になって、国際化を迎えると、「私たち」のモラルと別の集団の「私たち」のモラル(「彼たち」のモラルと呼ぶこととする)がぶつかり合う。「私たち」のモラルも「彼たち」のモラルも、それぞれの中で最適と思われるように進化していて、多くの場合、その内部にいる人たちは正しいとさえ思っているので、「私たち」と「彼たち」のモラルが出会うと激しく衝突することも多い。

国際化時代にあっては、「私たち」のモラルと「彼たち」のモラルが共存できるようにモラルを進化させることが求められているというのが彼の主張である。その時に、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)の「幸福」という概念を用いて功利主義で考え、私たちと彼たちの「最大幸福」が得られるようにモラルを進化させるべきであると説いている。グリーンが高校生のときにかぶれた功利主義がまた彼の中で復活している点が面白い。

11.2 状態のあるプログラム

前置きが長くなり過ぎたので、今回は、状態のあるプログラムをPythonを用いて開発することにしよう。例として用いるプログラムは銀行のATMだ。といっても、預金しかできないいたって簡単なものだが、グローバル変数によって状態が表されている例を見ておこう。

現在高、利率をグローバル変数\(credit, interest\)で表すことにしよう。
預金の関数\(deposit\)は預金額\(d\)を入力し、そのあと前回の預け入れからの経過期間\(p\)を入力することとする。これにより、新しい現在高は、利息込みの現在高\(credit*(interest**p)\)に預金額\(d\)を加えたものとなる。

プログラムは次のようになる。

Python 3.6.2 (v3.6.2:5fd33b5, Jul  8 2017, 04:57:36) [MSC v.1900 64 bit (AMD64)] on win32
Type "copyright", "credits" or "license()" for more information.
>>> credit=500
>>> interest=1.001
>>> def deposit():
  global credit
  dc=input('預金額=')
  d=float(dc)
  pc=input('前回からの経過期間=')
  p=float(pc)
  credit=credit*(interest**p)+d
  print('現在高='+str(credit))

>>> 

それでは、このプログラムを実行してみよう。

>>> deposit()
預金額=25
前回からの経過期間=5
現在高=527.5050050025002
>>> deposit()
預金額=25
前回からの経過期間=5
現在高=555.1478103552505
>>> 

\(deposit\)を起動するたびごとに利息と預金額によって新しい現在高が更新されていることが分かる。このプログラムでは状態をグローバル変数\(credit, interest\)で表している。そのうち、\(credit\)の方は値を変化させていくが、\(interest\)の方は固定である。
それでは、次回はこのプログラムをHaskellで実装してみよう。