bitterharvest’s diary

A Bitter Harvestは小説の題名。作者は豪州のPeter Yeldham。苦闘の末に勝ちえた偏見からの解放は命との引換になったという悲しい物語

随伴関手 - 米田の埋め込み

7.2 余米田の補題

米田の補題では、共変\(\rm{Hom}\)関手\(\mathcal{C}(A,-)\)を用いていたが、これを反変\(\rm{Hom}\)関手\(\mathcal{C}(-,A)\)に変えたのが、余米田の補題となる。

次のようになる。局所的に小さな圏\(\mathcal{C}\)と集合の圏\({\rm Set}\)、これらによって作られる関手圏\([\mathcal{C},{\rm Set}]\)を考える。今、任意の対象\(A \in \mathcal{C}\)と任意の関手\(F: \mathcal{C} \rightarrow {\rm Set}\)に対して、
\begin{eqnarray}
[\mathcal{C},{\rm Set}](\mathcal{C}(-,A),F) \simeq F(A)
\end{eqnarray}
が成り立つ。ただし、\(\mathcal{C}(-,A): \mathcal{C} \rightarrow {\rm Set}\)は関手であり、\([\mathcal{C},{\rm Set}](\mathcal{C}(-,A),F)\)は\(\mathcal{C}(-,A)\)から\(F\)への自然変換である。

図で示すと次のようになる。
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証明は、米田の補題でのそれを利用すると、同じように行える。

7.3 米田の埋め込み

米田の補題は、米田の埋め込みを証明するために利用したものである。米田の補題で、関手\(F\)を反変関手にしたものを、前回の記事で紹介した。
\begin{eqnarray}
[\mathcal{C},{\rm Set}](\mathcal{C}(A,-), \mathcal{C}(B,-)) \simeq \mathcal{C}(B,A)
\end{eqnarray}

これが米田の埋め込みと呼ばれている。図で表すと次のようになる。
f:id:bitterharvest:20180508135600p:plain

米田の埋め込みは\(B\)から\(A\)への\({\rm Hom}\)集合と、\(\mathcal{C}(A,-)\)から\(\mathcal{C}(B,-)\)への\({\rm Hom}\)集合とは同型であるといっている。

これは、局所的に小さな圏\(\mathcal{C}\)の任意の二つの対象\(A\)と\(B\)を選び、また、その対象間の\({\rm Hom}\)集合を\(\mathcal{C}(A,B)\)とした時、関手圏\([\mathcal{C},{\rm Set}]\)にはこれと同型の構造が存在する。即ち、\(A\)に対して対象\(\mathcal{C}(B,-)\)が、また、\(B\)に対して対象\(\mathcal{C}(A,-)\)が対応し、\(\mathcal{C}(A,B)\)に対して、対象\(\mathcal{C}(B,-)\)から対象\(\mathcal{C}(A,-)\)への同型の\({\rm Hom}\)集合が存在する。

従って、米田の埋め込みは、局所的に小さな圏\(\mathcal{C}\)の構造が、関手圏\([\mathcal{C},{\rm Set}]\)に忠実に(faithful)しかも充満に(full)埋め込まれることを述べている。なお、忠実は単射であることを言い、充満は全射であることを言う。

米田の埋め込みを利用してみよう。

例1

今、\(f \in \mathcal{C}(B,A)\)と\(u \in \mathcal{C}(A,X)\)が図のように与えられたとしよう。この時、自然変換\(\alpha_X\)を求めよう。これには、\(u’ \in \mathcal{C}(B,X)\)を求めればよいが、\(u’ = u \circ f\)となることは自明である。
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参考のために、三つの対象の場合も図に挙げておく。対応関係を確認して欲しい。
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例2

関手圏\([\mathcal{C},{\rm Set}]\)において、\(\mathcal{C}(A,-)\)と \(\mathcal{C}(B,-)\)が同型の時、小さい圏\(\mathcal{C}\)において、\(A\)と\(B\)は同型である。また、逆も成り立つ。証明は試みて欲しい。

例3

前順序(preorder)集合を考えてみよう。これは、任意の二つの要素に対して、\(a \leq b\)であれば矢印があり、そうでなければ矢印はないという性質を有している。

それでは、前順序集合に対して余米田の埋め込みを利用してみよう。
\begin{eqnarray}
[\mathcal{C},{\rm Set}](\mathcal{C}(-,A), \mathcal{C}(-,B)) \simeq \mathcal{C}(A,B)
\end{eqnarray}

今、右辺が\(A \leq B\)であったとする。この時、\({\rm Hom}\)集合\(\mathcal{C}(A,B)\)での関数の数が1であることに注意して、これを満たす左辺を求めて見よう。

今、任意の\(X\)に対して\(X \leq A\)の時は、前順序の関数が一つ存在するので\({\rm Hom}\)集合としての\(\mathcal{C}(-,A)\)は関数の数は1になり、そうでないときは前順序の関数が存在しないので空\(\phi\)となる。\(X \leq B\)についても同じである。なお、ここでは、\(X\)は\(A\)でもなく\(B\)でもないとする。

左辺の\({\rm Hom}\)集合での関数の数が1なので、\({\rm Hom}\)集合としての自然変換\([\mathcal{C},{\rm Set}](\mathcal{C}(X,A), \mathcal{C}(X,B))\)も1になるはずである。自然変換は、\(\mathcal{C}(X,A) \rightarrow \mathcal{C}(X,B))\)での組み合わせとなる。従って、以下の四つの組合せのどれかということになるが、どれが該当するのであろうか。この中の、一つだといっている。
\begin{eqnarray}
id_\phi: \phi \rightarrow \phi \\
absurb: \phi \rightarrow 1 \\
id_1: 1 \rightarrow 1 \\
prohibit: 1 \rightarrow \phi
\end{eqnarray}

この中で、4番目は関数が値を持たないこととなり関数ではない。従って、最初の三つが候補となるが、正しいのは3遍目となる。これは、\(X \leq A\)ならば、\(X \leq B\)であるといっている。これを示したのが下図である。
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このように、米田の補題、あるいは、余米田の補題は証明の助けにもなる。

次回は、圏論の中心である随伴関手を説明しよう。