bitterharvest’s diary

A Bitter Harvestは小説の題名。作者は豪州のPeter Yeldham。苦闘の末に勝ちえた偏見からの解放は命との引換になったという悲しい物語

圏論:ストリング・ダイアグラム ー 自然変換

1.6 自然変換

対象の間をつないだものが射、圏の間をつないだものが関手、そして関手の間をつないだものが自然変換である。射での合成は、関手でも保存されたが、自然変換でも同じように保存される。

関手は二つの圏を結ぶものであった。このため一方の圏は関手のドメインとなり、他方の圏は関手のコドメインであるが、本当の意味でドメインになるのは一方の圏の対象であり、コドメインとなるのは他方の圏の対象である。

従って一方の圏から対象\(X\)を任意に選んだとき、関手\(F,G\)のドメインは\(X\)で、コドメインはそれぞれ\(F((X),G(X)\)である。関手\(F,G\)をつなぐ自然変換\(α\)はドメインごとに定義され、ドメインは自然変換\(α\)の成分と呼ばれる。従って成分\(X\)に対しての自然変換は、\(α_X:F(X) \rightarrow G(X) \)で定義される。

圏\(\mathcal{C}\)で任意の射\(f:X \rightarrow Y\)を考える。このとき、対象\(Y\)を成分にして、自然変換\(α_Y:F(Y) \rightarrow G(Y) \)を定義することができる。このとき、それぞれの関係は図28に示すようになる。

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図28:自然変換
上記の図で、\(F(X)\)から\(G(Y)\)に行く経路には、最初に\(α_X\)を計算した後で\(G(f)\)を計算してたどり着く場合と、最初に\(F(f)\)を計算した後で\(α_Y\)を計算してたどり着く場合とがある。自然変換は、経路に寄らないというのが定義である。従って、自然変換は、任意の成分\(X\)に対して\(G(f) \circ α_X =α_Y \circ F(f)\)と定義される。

それでは、自然変換をストリング・ダイアグラムで表すこととしよう。例によって、圏\(1\)を用意し、\(\mathcal{C}\)の対象と射を、それぞれ関手と自然変換に変えよう。これは図29になる。

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図29:自然変換を圏\(1\)と結びつける

図30はこれのpasting diagramである。

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図30:自然変換をpasting diagramで表す。

ストリング・ダイアグラムでは複数の表現方法が可能であるが、その代表的なものが図31である。この図で右側の2つのダイアグラムが、自然変換の定義に相当する。

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図31:自然変換をストリング・ダイアグラムで表す。


用語説明:自然同型


自然変換は射の一種である。このため同型射を考えることができる。同型射は、ドメインからコドメインへの射が全単射であることを言う。これと同じように、自然同型とは、任意の成分\(X\)に対しての自然変換\(α_X:F(X) \rightarrow G(X\)が全単射となっていることである。

あるいは次のように定義することもできる。関手\(F\)から関手\(G\)への自然変換\(α_X\)が自然同型であるとは、任意の成分\(X\)に対して、\(β_X \circ α_X = I_F\) かつ\(α_X \circ β_X=I_G\) となるような、関手\(G\)から関手\(F\)への自然変換\(β_X\)が存在するときである。これを図で示したのが付録7である。

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付録7:自然同型

自然同型をストリング・ダイアグラムで表すと次のようになる。なお、\(u \in F(X), v \in G(X) \)である。

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付録8:自然同型をストリング・ダイアグラムで表す。