bitterharvest’s diary

A Bitter Harvestは小説の題名。作者は豪州のPeter Yeldham。苦闘の末に勝ちえた偏見からの解放は命との引換になったという悲しい物語

極限-錐と極限の抽象化

1.6 錐と極限の抽象化

前回の記事までで、インデックス圏を用いての粋と極限の求め方を説明してきた。その中では、インデックス圏から粋を作成しようとしている圏へ、三角形のまま移す関手と、一点にまとめる関手を用意した。前者は錐の底辺を形成し、後者は錐の頂点を形成することも説明した。また、インデクス圏に用意するものは三角形に限る必要はなく、多角形でもよいこと、さらには、それを無限とした円でもよいことを説明した。また、錐を構成するする条件として、全ての側面で可換であるということも説明した。

それでは、このようにして出来上がった錐をもう少し抽象化した件の中で考えることにしよう。

抽象化1

錐を作成するとき、インデックス圏\(\mathcal{I}\)と錐を構成する圏\(\mathcal{C}\)を用意し、その間を関手\(C,\Delta_C\)で結んだ。また、関手間に自然変換\(\alpha\)を定義した。

そこで、関手を対象とし、自然変換を射とすることで、新たな圏を定義することができる。これを圏\([\mathcal{I,C}]\)と呼ぶことにしよう。

抽象化2

もう一つは極限の錐を利用するものだ。圏\(\mathcal{C}\)の中に作られた錐を対象とし、それぞれの錐の頂点から極限の錐の頂点への写像を射とするものだ。これをそのまま圏\(\mathcal{C}\)としよう。ただ、それぞれの錐では、その側面が可換になっているということに注意しておこう。

この二つの抽象化を図で表すと次のようになる。
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直感的にこの二つは、同じであると感じであろう。左の方は、関手\(\Delta_C\)と\(D\)が与えられると、錐が形成されると説明している。右の方は、極限の錐の頂点\(LimD\)が与えられているとする。そして、ある対象\(C\)から極限の錐の頂点への射\(m\)が与えられたとき、その対象\(C\)は、錐の頂点になると言っている。従って、両方とも同じことを言っている。そこで、これをもう少し厳密にして、定理として示すことにしよう。

二つの抽象化は同型である

上の図を一般化して、下図のようにする。
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まず左側について説明する。\(\Delta_C\)と\(D\)の間の自然変換は、一般には、一つとは限らず複数となる場合もあり、集合となる。そこで、これを\([\mathcal{I,C}](\Delta_C,D)\)としよう。なお、自然変換がない場合もあるが、この場合には、錐を構成できないということになる。

次に右側を説明する。対象\(C\)から極限の錐の頂点\(LimD\)への射も、同じように一つとは限らず複数存在する場合もある(無の場合もあるが、この場合には錐を構成できないということになる)。この集合を\(\mathcal{C}(C,LimD)\)としよう。なお、\(C\)については錐であるという条件を課する必要はない。これは、後で分かるが、射がある場合には、必然的に、錐となる。

それでは、右側と左側は同型であることを示すこととしよう。

1) まず、左側から右側が導かれることを示す。これは、\([\mathcal{I,C}](\Delta_C,D)\)ならば\(C\)から\(LimD\)への射があることを示せばよい。

これは簡単である。関手\(\Delta_C\)と\(D\)によって錐を作成したとすると、その錐の頂点から極限の錐の頂点へ射\(m\)が存在することは、極限の錐の定義から明らかである。従って、\(m \in (\mathcal{C}(C,LimD)\)となるので、証明できたこととなる。

2) 次に、右側から左側が導かれることを示す。\(\mathcal{C}(C,LimD)\)であるならば、\([\mathcal{I,C}](\Delta_C,D)\)であることを示せばよい。

これには、射の集合\(\mathcal{C}[C,Limd]\)から任意の一つの射を取り出す。これを\(m\)としよう。このとき、\(C\)を頂点とする錐が構成できれば、証明できたことになる。これは、錐の辺が構成されることを、元々のインデックス圏の対象ごとに示せばよい。

下図に示すように、インデックス圏の対象\(I\)について考えてみよう。極限の錐にはその定義から射\(\beta_I\)が存在する。従って、\(m\)と\(\beta_I\)を合成したものは、射となるので、これを\(\alpha_I\)とする。これは、とりもなおさず、\(C\)を頂点とする錐の辺である。全てのインデックスの対象に対して、上記の操作を施すことで、\(C\)を頂点とした錐を実現することができ、証明は終わりである。
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