bitterharvest’s diary

A Bitter Harvestは小説の題名。作者は豪州のPeter Yeldham。苦闘の末に勝ちえた偏見からの解放は命との引換になったという悲しい物語

米田の補題 ー 証明

6.3 米田の補題の証明

前回の記事で米田の補題を提示した。米田の補題は次のようになっていた。

局所的に小さな圏\(\mathcal{C}\)において、\({\rm Hom}\)関手\(h^A: \mathcal{C} \rightarrow \mathbf{Set}\)から、集合値関手\(F: \mathcal{C} \rightarrow \mathbf{Set}\)への自然変換と、集合である対象\(F(A)\)の要素との間に一対一の対応が存在する。なお、\([\mathcal{C},\mathbf{Set}]\)は関手圏で、\({\rm Hom}\)関手と集合値関手はその対象であり、自然変換はその射である。

これを式で書くと、
\begin{eqnarray}
[\mathcal{C},\mathbf{Set}](h^A,F) \cong F(A)
\end{eqnarray}

\({\rm Hom}\)関手\(h^A\)と集合値関手\(F\)では、自然変換\(\alpha\)に対して、下図の可換図式が成り立つ。
f:id:bitterharvest:20190527135127p:plain
そこで、上の図で、\(X\)を\(A\)とし、\(Y\)を\(X\)とすると、下図の可換図式を得る。
f:id:bitterharvest:20190527135751p:plain
このとき、これは単に可換図式だと述べているだけではない。米田の補題は「\({\rm Hom}\)関手\(h^A\)から集合値関手\(F\)への自然変換と、集合である対象\(F(A)\)の要素との間に一対一の対応が存在する」と言っている。隠れていたものが表れてくるのがこの補題だ。

1)可換図式であることの証明

それでは、米田の補題を証明する前に、最初に揚げた図が可換図式になっていることを証明しよう。それには自然変換が存在することを証明すればよい。

もう少し詳しく説明すると、\(F\)を圏\(\mathcal{C}\)から圏\(\mathbf{Set}\)への関手とする。関手であることから、任意の\(a \in A\)に対して、任意の関数\(g:A \rightarrow X\)と任意の\(f:X \rightarrow Y\)適応したとする。このとき、圏\(\mathcal{C}\)内で関数\(g,f\)を施して、圏\(\mathbf{Set}\)へ移した\(F (f (g (a)))\)と、\(a\)を圏\(\mathbf{Set}\)に写し、その後、関数\(F(g),F(f)\)を施した\(F(f) (F(g) (F(a)))\)とは、一致する。これを利用して、可換にするような、\(\alpha = \{\alpha_X : \mathcal{C} (A,X) \rightarrow F(X), \alpha_Y : \mathcal{C} (A,X) \rightarrow F(X) \}\)が存在することを証明すればよい。

そのために、下図を利用しよう。この図は、説明しやすくするために、圏\(\mathcal{C}\)を圏\(\mathbf{Set}\)の上に描いた。なお、\(p = F(a)\)とした。
f:id:bitterharvest:20190527135824p:plain
最初に1から2を経由して3への写像は考えよう。1での一つの要素\(g \in \mathcal{C}(A,X)\)は2での要素\(f \circ g \in \mathcal{C}(A,X)\)に写される。これは3の中のある一つの要素に写すことを考えよう。この要素を\(F ( f \circ g) (p) \in F(Y)\)としよう。2から3への射を考えることができるので、これを\(\alpha_Y\)としよう。これまでの説明を式で表すと次のようになる。
\begin{eqnarray}
&& \alpha_Y \circ \mathcal{C}(A,f)(g) \\
&=& \alpha_Y (f \circ g) \\
&= & F(f \circ g) (p)
\end{eqnarray}

\(F\)が関手であることを利用して式を展開すると
\begin{eqnarray}
&= & F (f) \circ F (g) (p) \\
&= & F (f) (F (g) (p))
\end{eqnarray}

ここで、\(F (g) (p) \in F(X)\)である。即ち、\(F(X)\)の一つの要素である。そこで、1から3への写像を考えることができる。そこで、これを\(\alpha_X\)としよう。さらに式の展開を続けると、
\begin{eqnarray}
&= & F (f) (\alpha_X (g) ) \\
&= & F (f) \circ \alpha_X (g)
\end{eqnarray}
を得る。これから、任意の\(f,g\)に対して、
\begin{eqnarray}
&& \alpha_Y \circ \mathcal{C}(A,f)(g) \\
&= & F (f) \circ \alpha_X (g)
\end{eqnarray}
とするような自然変換\(\alpha=\{\alpha_X,\alpha_Y\}\)が存在することが分かる。

2)米田の補題の証明

それでは、米田の補題を証明しよう。1対1に対応することから次のように行えばよい。

1)\(F(A)\)内の要素を一つ定めたとしよう。この要素に対して、\(h^A\)から\(F\)への自然変換がただ一つ存在することを示す。

2)\(h^A\)から\(F\)への自然変換を一つ定めたとしよう。この自然変換に対して、\(F(A)\)内の要素がただ一つ存在することを示す。

1)の証明を行うことを考えよう。証明には下図を利用しよう。
f:id:bitterharvest:20190527135909p:plain
\(F(A)\)内の要素を一つ定めたとする。これを\(p\)としよう。これは任意の点であることに注意して欲しい。そして、\(h^A\)から\(F\)への求める自然変換を\(\alpha:h^A \rightarrow F\)としよう。自然変換は成分ごとに定められるので、\(\mathcal{C}(A,A)\)から\(F(A)\)への成分を\(\alpha_A\)としよう。また、任意の対象\(X\)に対して、自然変換の成分を\(\alpha_X\)としよう。そして、\(\alpha_A\)と\(\alpha_X\)がただ一つ存在することを示せばよい。

まず、\(\alpha_A\)について考えよう。\(\mathcal{C}(A,A)\)は恒等射であるため、\(id_A = \mathcal{C}(A,A)\)である。従って、単一の射\(id_A\)から単一の要素\(p\)へ写像させるただ一つの\(\alpha_A\)が存在する。

次に、\(\alpha_X\)について考えよう。\(\mathcal{C}(A,f) : g \rightarrow f \circ g\) である。ここで、\(g \in \mathcal{C}(A,A)\), \(f \circ g \in \mathcal{C}(A,X)\)なので、\(g=id_A\)より、\(f = \mathcal{C}(A,X)\)となる。他方、\(p\)は、射\(F(f)\)によって\(F(X)\)のある一つの要素に写像される。この点を\(q \in F(X)\)としよう。従って、
\begin{eqnarray}
q=F (f) (p)
\end{eqnarray}
となる。

一方、\(f = \mathcal{C}(A,X)\)から\(q\)への変換が存在する。これを\(\alpha_X\)とする。即ち、
\begin{eqnarray}
q=\alpha_X (f)
\end{eqnarray}
である。

これより、
\begin{eqnarray}
\alpha_X (f) = F (f) (p)
\end{eqnarray}
となり、\(\alpha_X\)が一意に定まることが分かる。

従って、 \(F(A)\)の一つの要素に対して、成分を\(\alpha_A\), \(\alpha_X\)とするようなただ一つの自然変換\(\alpha\)が存在することが証明できた。

同様に、任意に与えた一つの自然変換\(\alpha\)に対して、\(F(A)\)の要素がただ一つ存在することも証明できる。

よって、米田の補題は証明された。