bitterharvest’s diary

A Bitter Harvestは小説の題名。作者は豪州のPeter Yeldham。苦闘の末に勝ちえた偏見からの解放は命との引換になったという悲しい物語

神代植物公園・生物多様性センターを訪れる

東京も梅雨に入ったと伝えられた日に、調布市にある神代植物公園を訪れた。とはいっても、ここのメインであるバラ園ではなく、伊豆諸島の草木を調べるためであった。

島は誕生した場所によって、大陸島か海洋島に区分される。大陸棚の上にある島を大陸島といい、大陸棚から離れている島を海洋島と呼ぶ。大陸があるところでは、大陸を構成する花崗岩が、海洋底を構成する玄武岩の上に浮いている。そして、大陸の周辺部が大陸棚となっている。大陸(大陸棚)で火山活動があり、その結果、生まれた島が大陸島である。このような島は大陸から余り離れていなかったり、接続していた時があったりするので、大陸の動植物が見られるのが通常である。これに対して、海洋島は誕生したときはもちろん、その後も偶然に運ばれてこない限り、動植物は存在しない。流木に乗って動物が漂流してきたり、鳥によって種子が運ばれてきたり、ぷかぷかと浮きながら種子が流れ着いたりしない限りは、鳥以外の生き物は存在しない。海洋島で生息する生き物は偶発的に定着したものであるために、これらの島々の生態系には偏りが見られるのが特徴である。

このため、伊豆諸島や小笠原諸島のような海洋島での生態系を調べることで、動植物の多様性を観察することができる。ここでの多様性という言葉は少々一般的すぎるが、そこには三つの多様性、すなわち、環境の多様性、種の多様性、遺伝子の多様性が含まれている。今回の目的は、この多様性を実感することで、多様性を保全することの大切さを知ろうとするものである。

神代植物公園には、京王線調布駅からバスで行くのが便利である。

植物多様性センターは、公園正門の左手方向にある。そこは三つの領域に分かれていて、下図で、右下が伊豆諸島ゾーン、左下が奥多摩ゾーン、上部が武蔵野ゾーンである。

伊豆諸島ゾーンはさらに三分割されていて、それらは火山性草地エリア、海岸砂地エリア、海岸岩地エリアである。

火山性草地エリアは、火山が噴火した後にできた不毛のスコリア(火山噴火で放出された多孔質の火山岩の一種)の荒地である。荒地に最初に侵入してくる植物は、シマタヌキラン、ハチジョウイタドリ、オオバヤシャブシである。下の写真はこのエリアの様子を示したものである。

オオバヤシャブシが不毛な地で生育できるのは、フランキア菌と共生しているためである。この菌はオオバヤシャブシの根に共生し、窒素を固定させる。すなわち、根に根粒を形成し、大気中の窒素を土壌に供給することで、オオバヤシャブシの生育を助けている。

さらに、これらの植物の腐食によって有機物の堆積が進むと、ハチジョウキブシ(写真左)、ハチジョウススキ(写真右)などが生育する。

このエリアの隅に、ハチジョウアザミがあつた。通常のアザミはとげがあるが、これを食べる動物がいなかったためにとげを失ったようである。

次は海岸砂地エリア(写真の手前)と海岸岩地エリア(写真の奥)である。もっとも手前にあるのはシマホテルブクロ、中程はオオシマハイネズで、いずれも砂地に適応した植物である。

まず、海岸砂地エリアから見ていこう。伊豆諸島の海岸部は、断崖や岩地が多く、浜も多くは礫浜で、砂浜はあまり発達していない。しかし、大島、新島、三宅島、八丈島などには、小規模な砂浜がある。海岸の砂浜では、波風による砂の移動の影響を受ける。このため、ここで生育する植物は、地下茎を地中に広げたり、強く長い走出枝を地上に広げたり、地中に深く根を下ろしたりと、安定しない砂地で生育できるように適応している。砂地では、ハマヒルガオハマボウフウ、ケカモノハシ、ネコノシタなどが生育している。

ハマボウフウは海岸に自生するセリ科の多年草で、潮風や乾燥に強く、砂浜や岩場などの厳しい環境でもたくましく育つ。白いレースのような花を夏に咲かせ、根は古くから薬用としても利用された。

ハマゴウはシソ科の常緑または半常緑の小低木で、砂浜を這うように広がり、夏の間に淡い紫色の花を咲かせる。果実は黒く熟し、コルク質の果皮によって海水に浮かび、波に乗って種子を広げる。海辺の暮らしに適応した植物である。

最後は、海岸岩地エリアである。海岸に接した切り立った地形で、波による浸食や潮風の影響を常に受ける。岩盤に生育している植物は、わずかな岩の切れ目や隙間、くぼみに根を深く張る。また、崖下の岩や砂が堆積した場所には、崖地とは違った植物、ハチジョウススキ、ツルナなどがみられる。次の写真が、海岸岩地での植生を示していた。

トベラは常緑低木で、潮風や乾燥に強く、防風・防潮の役割を果たす。光沢のある厚い葉と、春に咲く白い芳香のある花が特徴で、庭木や生垣としても人気がある。

ハマナデシコは、伊豆諸島の海岸に咲く可憐でたくましい多年草で、ナデシコ科に属し、5月から8月にかけて、紅紫色の花が群れ咲き、岩場や草地を彩る。葉は厚みがあり光沢があって、潮風や乾燥にも強く、海辺の環境に適応した植物である。種子は風によって散布される。

シマキンレイカは伊豆諸島の神津島御蔵島にのみ分布する、日本固有の絶滅危惧植物である。スイカズラ科の多年草で、湿った山中の岩場などにひっそりと生育する。

ガクアジサイは、海岸沿いの林縁や岩場に自生する日本原産のアジサイの原種で、「ハマアジサイ」とも呼ばれる。

シマガマズミは伊豆諸島に固有の落葉低木で、特に日当たりのよい林縁や路傍に自生する。ガマズミの島嶼型とされ、樹高はおよそ2〜4メートル。葉は厚みがあり光沢があって、縁には鋭い鋸歯が並ぶ。春(4〜5月)には白い小花を多数咲かせ、秋には赤く熟す果実をつける。この植物は、絶滅危惧種に指定されており、推定開花株数は1000個体未満とされている。

オトコエシは、秋の七草のひとつ「オミナエシの近縁種」で、白い小花を多数咲かせるスイカズラ科の多年草である。日本各地に分布するが、伊豆諸島には独自の「島型オトコエシ」が存在し、本土型とはいくつかの点で異なる。隔離された火山島で進化した「島嶼効果」の一例とされ、植物の進化や適応を学ぶうえで興味深い存在である。

サクユリは伊豆諸島に固有のユリで、世界最大級のユリとして知られている。ヤマユリの変種で、伊豆大島や利島、青ヶ島などで見られる。絶滅危惧種に指定されている。

小笠原諸島の植物は、植物公園のなかの温室で見られるということなので、そこにも足を運んだ。

オオハマギキョウはキキョウ科の固有植物で、 海岸近くの崖や日当たりの良い草地を好み、その姿はまるで木のように堂々としている。草丈は2〜3メートルに達し、茎は木質化して太くなる。葉は細長い披針形で光沢があり、輪生状に密集してつくことから、島では「千枚葉(センマイバ)」とも呼ばれている。花期は5〜7月で、一生に一度だけ花を咲かせる「一回結実性」の植物で、結実後は枯れてしまう。絶滅危惧種に指定されており、推定開花株数は1000個体未満とされている。

イオウノボタンは、北硫黄島にのみ自生するノボタン科の常緑低木で、小笠原諸島の中でも特に限られた環境に根付いた貴重な固有種である。樹高は1〜2メートルほどで、葉は楕円形、厚みがあり、表面には白い毛が密生している。花期は7〜8月で、枝先に濃い紅紫色の5弁花を咲かせる。絶滅危惧種に指定されている。

ムニンタツナミソウはシソ科の多年草で、島の春を彩る繊細で美しい花を咲かせまる。草丈は約15〜70cmで、茎には4つの稜があり、短毛が生えている。花期は3〜5月で、茎先に白〜淡紅色の唇形花を多数つける。父島の夜明平〜中央山東平、兄島の林縁や岩場など、乾燥しすぎない林地に群生する。絶滅危惧種に指定され、ヤギの食害により激減している。

テリアハマボウは、小笠原諸島に自生するアオイ科フヨウ属の固有植物で、オオハマボウの近縁種とされる。名前の「照葉」は、葉の表面がつやつやしていることに由来、葉はハート形で光沢があり、手触りはつるつるしている。花は大きな黄色の5弁花で、中心部が赤く、咲いたその日にしぼむ「一日花」。樹高は環境によって異なり、低木林では2〜3m、高木林では10m以上に達する。海辺に生えるオオハマボウと異なり、山地性の植物として知られている。「モンテンボク」という別名もあり、ハワイ語の「ハウ」=ハイビスカスに由来するとも言われている。

オガサワラグワは、小笠原諸島に固有のクワ科の落葉高木で、湿性高木林の林冠を構成する重要な樹種だった。美しい木目と耐久性から、明治期には家具材や工芸材として重宝され、乱伐により激減した歴史を持つ。樹高は10メートルを超えることもある。葉は大きく、クワ属らしい形状で、秋には黄葉する。実は黒紫色に熟し、かつては野鳥の重要な食料源でもあった。父島・母島・弟島に百数十個体のみが残存し、絶滅危惧種に指定されている。外来種のアカギやシマグワとの交雑問題、生育地の減少、天然更新の困難さなどが深刻な課題とされている。

伊豆諸島や小笠原諸島の植物を観察する中で、さまざまな要因によりこれらの島々に定着した植物たちが、現地の生態系に応じて巧みに適応した姿を目の当たりにした。こうした変化は、植物とその周囲の環境、さらには動物との間に深いかかわりがあり、この安定した関係が築かれるまでに、気の遠くなるような長い年月が費やされてきたことを想像させる。完成された生態系を壊すのは容易だが、それを維持し続けることの困難さ、そして尊さを改めて実感した。生物多様性センターの地道な活動が、今後も絶えることなく続いていくことを願いながら、神代植物公園へと足を運んだ。