bitterharvest’s diary

A Bitter Harvestは小説の題名。作者は豪州のPeter Yeldham。苦闘の末に勝ちえた偏見からの解放は命との引換になったという悲しい物語

身近な存在としての量子力学(4):光合成



5.光合成

新緑の季節になってきたが、この時期の植物はとても美しい。短い桜の花の時期を過ぎた後、淡い緑色が我々の心を和ましてくれる。最近は、桜の名所はどこも人出が多く、静かに楽しむということができなくなったが、さすがに、新緑を大勢で楽しむという習慣は生まれていないので、都会の小さな公園や郊外の林で、一人あるいは夫婦で静かに楽しむことができる。

葉の色はどうして緑色になるのだろう。光合成においても量子力学が働いていることを知るまでは、このようなことにあまり関心を抱かなかった。緑色の光が反射されているのだろう程度に考えていた。反射されていない光、赤と青が葉の中でどのような活動をしているのかについては全く興味を持つことはなかった。

しかし、今回、量子力学的な作用を理解するためには、前提知識として、光合成の働きを調べる必要があった。光合成の働きが分かるにつれて、光が重要な役割を担っていることが本当の意味で理解することができ、葉に色が緑であることに親近感を抱くようになった。散歩の最中でも、きれいな葉を見ると、その中で行われている光合成のプロセスを思い浮かべては、その偉大さを褒めたたえたい気分になる。

脇道にそれたので、元に戻ることとする。この記事では、光合成の原理を簡単に述べた後で、量子力学がどのように使われているらしいのかを述べることとする。「らしいのか」と書いたが、この分野の研究は進行中の部分が多く、新たな真実が加わってくることが多いので、今回の記事での内容が将来書き換わる可能性が少なからず存在するためである。

5.1 原理

光合成は、植物の偉大な工場でのプロセスある。この工場は、太陽からの光を受けて、二酸化炭素\(\ce{CO2}\)と水\(\ce{H2O}\)から栄養分の炭水化物(糖類)\(\ce{C6H12O6}\)と酸素\(\ce{O2}\)を生成する。

   \(\ce{6CO2 + 6H2O -> C6H12O6 + 6O2}\)

光合成は、二つのプロセスに分かれている。

水と二酸化炭素から炭水化物を生成するためには、水を燃やして酸素の部分を廃棄し、残った水素を二酸化炭素にくっつければ(固定すれば)良いことが分かる(専門用語としての固定するの厳密な意味は、二酸化炭素の一部であった炭素原子がより複雑な還元された分子(糖質)の一部に変換されて、炭素が養分として利用可能になることを言う)。

一番目のプロセスは、明反応と名付けられている。ここでは、水を燃やして、水素を取り出す。光合成では、水素を原子の形ではなく、陽子(水素イオン)と電子の部分に分けて運ぶ。その運び屋は\(\ce{NADPH}\)である。これは、長い名前だが、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸と名付けられている。これは、\(\ce{NADP^+}\)(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸の酸化型と呼ばれる。これに対し、\(\ce{NADPH}\)は還元型と呼ばれる)に一つの陽子と二つの電子がくっついてできたものである。
水の分解とNADPHの生成を化学式で表すと次のようになる。

   \(\ce{H2O -> 2H+ + 2e- + 1/2O2}\)
   \(\ce{NADP+ + H+ + 2e- -> NADPH}\)
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なお、これらはそれぞれ別の工場で行われる。また、これらの作業には光がエネルギーとして用いられる。明るいところで作業が行われるので、明反応と呼ばれる。上の二つの式をまとめると、明反応は次のような化学反応が生じる。

   \(\ce{H2O + NADP+ -> NADPH + H+ + 1/2O2}\)


二番目のプロセスは、暗反応と名付けられている。ここでは、NADPHが運んできた水素を二酸化炭素に固定する。運んできた水素イオンと電子が\(\ce{NADPH}\)からはぎとられるので、\(\ce{NADPH}\)は元の\(\ce{NADP+}\)に戻る。
   \(\ce{6CO2 + 12NADPH +12H+ -> C6H12O6 + 12NADP+ + 6H2O}\)
この化学反応を行うために使われるエネルギーは、光ではなく、\(\ce{ATP}\)(アデノシン三リン酸)と呼ばれる化学物質である。このため、この反応は明るいところ(光を利用していない)ので暗反応と呼ばれる。

ここで生まれた単糖\(\ce{C6H12O6}\)から、さらに、でんぷんやセルロースなどの最終生成物が作られる。

最後に\(\ce{ATP}\)について簡単に触れておく。\(\ce{ATP}\)には、3分子のリン酸がついてる。水と反応して、リン酸1分子が離れるとエネルギーが放出される。

   \(\ce{ATP + H2O -> ADP + HPO4^{-2} + H+}\) + エネルギー
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全体をまとめると、暗反応では、次の化学変化が起こる。
   \(\ce{6CO2 + 6H2O + 12NADPH + 12ATP -> }\)
      \(\ce{C6H12O6 + 12NADP+ + 12ADP + 12HPO4^{-2}}\)


暗反応で得られた\(\ce{ADP}\)からは、明反転の中で先ほど述べたときとは逆の反応で、ネルギーを得て\(\ce{ATP}\)が生成される。明反転での全体の化学反応を示すと以下のようになる。
   \(\ce{12NADP+ + 12ATP -> 12NADPH + 12ATP + 6O2}\)

従って、明反応と暗反応をあわせると、
   \(\ce{6CO2 + 6H2O -> C6H12O6 + 6O2}\)
となる。


光合成は、太陽のエネルギーを利用して、二酸化炭素と水からでんぷんやセルロースなどの炭水化物を作る。製造の過程の中で\(\ce{NADPH}\)と\(\ce{ATP}\)は重要な役割を担っているが、これらはリサイクルされている。この事実は、環境問題を解決しようとするときに重要な糸口を与えてくれるように思う。