bitterharvest’s diary

A Bitter Harvestは小説の題名。作者は豪州のPeter Yeldham。苦闘の末に勝ちえた偏見からの解放は命との引換になったという悲しい物語

量子力学とHaskell

量子力学の世界を垣間見る(7):シュレディンガー方程式

昨日(9月22日)は、中学時代の同級生と大相撲秋場所を見に行った。 横綱昇進がかかっていた稀勢の里が、前の日に敗れて3敗を喫したため、今場所の興味が薄れてしまった直後の観戦となった。他方で、先場所、休場した豪栄道が、信じられないほどの充実した相撲…

量子力学の世界を垣間見る(6):ハミルトニアンの活用

この3月に退職して以来、これまで専門としてきた情報科学の研究から離れて、日本の古代史(平安時代の終わりまで)を勉強している。僕が高校生だった頃は、社会科の科目には、社会、世界史、日本史、地理の4科目が設けられていた。その内で、社会は必修で、残…

量子力学の世界を垣間見る(5):離散系から連続系へ

これまで、Haskellと結びつけながら量子力学の世界を説明してきた。そのため、Haskellに邪魔されて量子力学の世界が分かりにくくなったかもしれない。そこで、この記事では、これまでの話をまとめながら、量子力学の世界を、離散系から連続系へと展開させて…

量子力学の世界を垣間見る(4):ボーズ粒子とフェルミ粒子

8.ボーズ粒子とフェルミ粒子 粒子には二つの種類がある。一つは、光子に代表されるボーズ粒子であり、他の一つは、電子を代表とするフェルミ粒子である。ボーズ粒子が来るものは拒まずというような性質を有しているのに対して、フェルミ粒子は共存はできな…

量子力学の世界を垣間見る(3):粒子が相互に交換されるモデル:周期系

6.周期系 量子力学の世界をHaskellで覗けるようにするために、格子点の数が有限である場合を前回の記事で取り上げた。その時は端があるモデルについて考えたが、この記事では端同士がつながって輪のようになっている有限系について考えてみよう。これを周…

量子力学の世界を垣間見る(2):粒子が相互に交換されるモデル:有限系

3.固有状態、固有値 隣り合う格子点の間で粒子が相互に交換されるモデルについて、西野友年著『場の理論』を参考にして、もう少し説明を加えておこう。このモデルは次の方程式(時間変化を与える発展方程式)で表される。 \begin{eqnarray} i \hbar \frac{d}…

量子力学の世界を垣間見る(1):粒子が相互に交換されるモデルの概略

ケットとブラでの状態の表し方、そして、状態の重ね合わせも学んだので、量子力学の世界を少しだけ垣間見ることにしよう。3年前の秋(2013年)に情報科学・工学関連の学会が鳥取大学で開催された。修士の学生が発表したのだが、彼の発表の合間を利用して、鳥取…

量子力学の初歩をHaskellで学ぶ(2):重ね合わせ

量子力学の特徴の一つは、状態の重ね合わせである。これは、量子状態の時はいくつかの状態を複数個同時に取るが、観察すると、ある一つの状態しか得られないという摩訶不思議な現象である。また、同じ条件で観察したとしても、観察するたびに取る状態が異な…

量子力学の初歩をHaskellで学ぶ(1):ブラとケット

前回の記事までで、量子力学をHaskellで表す方法について説明してきた。まだ、初歩の初歩という段階だが、ここまでのプログラムを利用して量子力学の世界に少しだけ触れてみよう。プログラムはすべてBitHubに登録してあるので、そこからダウンロードして利用…

身近な存在としての量子力学(14):重ね合わせの内積

7月に入ってから、世界最古の自筆本日記である『御堂関白記』の読み方を習い始めた。これは、平安時代の貴族、摂政太政大臣・藤原道長(966-1027年)が著した日記だ。2013年にはユネスコ記録遺産にも登録された。995年ごろから書き始めたようだが、998年か…

身近な存在としての量子力学(13):ブラでの重ね合わせをHaskellで表現する

梅雨の中休みの東京の暑さに耐えるのはとても大変だ。昨年までは、7月一杯、運の悪い場合には、8月の第一週まで、講義があったため、ひたすら耐えるしか方法がなかった。しかし、退職した今年は、東京にいる義理はない。そこで、天城高原の別荘に逃げ込んで…

身近な存在としての量子力学(12):ブラをHaskellで記述する

10.ブラをHaskellで記述する それでは、ブラをHaskellで実現することを考える。 10.1 ブラをデータ型で定義する ケットと同じように、ブラも代数型データで表すことにしよう。ケットは7章で次のように定義した。 infixr 5 :+: data Ket a where KetZe…

身近な存在としての量子力学(11):ブラ

9.ブラ 量子力学の世界にはこれまでに紹介してきたケットの他に、ブラという記法を用いる。そして、ブラとケットをあわせてブラケット記法(bra-ket notation)と呼ばれる。勿論、ブラもケットも量子力学における量子状態を表すための記法である。名前の付け…

身近な存在としての量子力学(10):重ね合わせ(続き)

8.重ね合わせ(続き) 最近、日本の古代史を学び始めた。殆どの時間をこの時代のことを記述した書籍を読む時間にあてているのだが、若いころの様にはすっと頭の中に入ってこない。特に、諱(いみな)や諡号(しごう)にはてこずる。現存する天皇家の初代の…

身近な存在としての量子力学(9):重ね合わせ

8.重ね合わせ 量子力学の世界は不思議な世界だ。別荘の玄関に、お腹の羽毛が黄色い鶺鴒(セキレイ:写真はWikipediaのcommonsより)が巣を作り、子育てをしている。オスとメスに差がないので、どちらが卵を抱いているのかわからない。もし、卵を抱いている…

身近な存在としての量子力学(8):ケットをHaskellで表現する

7.ケットをHaskellで表現する ケットをHaskellで実現することにしよう。プログラムは実装すること自体には、それほど時間を取られることはない。せいぜい数十分、長くても数時間だ。しかし、設計には多くの時間をいつも費やしている。世の中には、これとは…

身近な存在としての量子力学(7):ケット

6 ケット 量子力学は、光子や原子あるいは電子などとても小さな世界を扱う。微小な世界を構成しているこれらは粒子と呼ばれる。量子が存在しない世界は真空の世界である。粒子が存在する場合には、どこに存在しているのかを考えなければならない。ここでは…

身近な存在としての量子力学(6):光合成(続き)

MathJax.Hub.Config({ TeX: { extensions: ["mhchem.js"] } }); 5.3 量子コンピューティング これまでの話には量子力学に関連する事柄は出てこなかった。どこに潜んでいるのだろう。光化学系IとIIでは、太陽光からのエネルギーを得て化学反応を行っている…

身近な存在としての量子力学(5):光合成(続き)

MathJax.Hub.Config({ TeX: { extensions: ["mhchem.js"] } }); 5.2 明反応(光合成) これまで、化学反応を中心に光合成を説明してきた。それでは、食物の葉の中では、細胞や分子のレベルでどのようなことが起きているのであろうか。これを説明するには…

身近な存在としての量子力学(4):光合成

MathJax.Hub.Config({ TeX: { extensions: ["mhchem.js"] } }); 5.光合成 新緑の季節になってきたが、この時期の植物はとても美しい。短い桜の花の時期を過ぎた後、淡い緑色が我々の心を和ましてくれる。最近は、桜の名所はどこも人出が多く、静かに楽しむ…

身近な存在としての量子力学(3):進化論

4.進化論 人間の進化の歴史をたどることは、歴史学と生物学を融合した新しい学問の領域への挑戦であり、興味が掻き立てられる。DNAの構造が簡単に分析できるようになったため、年代を追ってどのようにDNAが変化してきたのかが把握できるようになってきた。…

身近な存在としての量子力学(2):ヨーロッパコマドリ

3.ヨーロッパコマドリ 今では、地球上のどこに自身が位置しているのかは、GPSによって簡単に把握することができる。しかし、過去においては、それほど簡単なことではなかった。15世紀半ばから17世紀半ばにかけて、ヨーロッパ人がアフリカ、アジア、アメリ…

身近な存在としての量子力学(1):MRI(磁気共鳴画像診断装置)

1.量子力学を学び始める 今年になってから、量子力学関係の本を多読した。いろいろなことが分かって、量子力学の中に潜んでいる数学の部分をHaskellで表現することに興味を抱いた。少し、長い連載の記事になると思うが、紹介してみたいと思う。といっても…