bitterharvest’s diary

A Bitter Harvestは小説の題名。作者は豪州のPeter Yeldham。苦闘の末に勝ちえた偏見からの解放は命との引換になったという悲しい物語

読書

増田晶文著『稀代の本屋 蔦屋重三郎』を読む

来年の大河ドラマは蔦重三郎である。蔦重と愛称される彼は、歌麿や写楽など、この時代のエンターテイナーともいえる戯作者・絵師を生み出した。クリエイターにしてプロデューサーであり、また新しい時代を作り出した町人でもある。ドラマの主演は横浜流星さ…

江戸時代の百姓に関連した書物を読む

正月の人気番組の一つに駅伝がある。元旦は実業団のニューイヤー駅伝、2・3日は大学の箱根駅伝である。特に本人や家族に関係者がいるときは、応援に熱が入ることだろう。我が家もその例外ではなく、今年は両方とも好成績をあげたので、和やかに観ることがで…

幕末の生糸仕切書を読む

幕末から明治初めにかけては、大地が揺れ動くような大きな変化を、この時代の人たちは感じたのではないだろうか。黒船が来航したのが嘉永6年(1853)、日米和親条約が翌嘉永7年に締結された。そして安政5年(1858)には、米国・英国・フランス・ロシア・オランダ…

東南アジア・南アジアに関する良書を読む

近年、東南アジア・南アジアの経済成長は著しく、ニュースでも明るい話題として報じられる機会が多くなってきた。これに刺激を受けて、この地域の歴史的な背景を知りたいと思い、関連する書籍を立て続けに読んでみた。最初に読んだのは、アンソニー・リード…

佐々木閑著『大乗仏教 こうしてブッダの教えは変容した』を読む

博物館を訪問する機会が増えるにしたがって、仏像を見る機会も多くなってきた。しかしそれぞれの歴史や意義を問われると答えに窮してしまうことのほうが多い。どうも仏教に関しての知識が頭の中で整理されていないことが原因のようだ。そこで手抜きをして重…

松里公孝著『ウクライナ動乱ーソ連崩壊から露ウ戦争まで』を読む

ロシアがウクライナに侵攻してから1年半が経ち、この戦いがいつ終わるのか、どのように収拾されるのかは不透明である。2006年にセルビアのベオグラードを訪問したことがある。街のところどころに砲弾の跡があったので驚いて尋ねたところ、90年代末のコソボ紛…

ジェイソン・ヒッケル著『資本主義の次に来る世界』を読む

熱せられた鉄板の上にいるような日が続いている。ニュースによれば、記録を取り始めてから最も暑い夏を迎えているとのこと。人間の活動が気候変動を引き起こしていると考えざるを得ないほどの異常さである。これ以上地球を痛めつけると、取り返しのつかない…

ウォルター・アイザックソン『コードブレーカー』を読む

4月に図書館に予約した本が、やっと貸し出してくれた。この本は上下2巻に分かれていて、今回入手できたのは下巻の方である。上巻の方は、順番待ちの人がまだ9人もいるので、月に2人ずつ減るとしても、入手は5か月後である。今年中ならば良い方だろう。人気の…

仲正晶樹著『悪と全体主義』を読む

この本はハンナ・アーレント(Hannah Arendt)さんの代表作『全体主義の起源』とニューヨーカー誌に発表した『エルサレムのアイヒマン―悪の陳腐さについての報告』を紹介したもので、著者(紹介者)は仲正晶樹さんである。アーレントは、ドイツ・ケーニヒスベル…

雪舟にみる室町時代の生き方

毎年恒例になっている研究会での年一回の発表をした。今回は、島尾新さんの『画僧 雪舟の素顔 天橋立に隠された謎』をベースにというよりも、この本に頼り切って、発表を行った。このため、島尾さんの著書の紹介ともいえるのだが、それでも室町時代の特徴を…

井上浩一著『生き残った帝国ビザンティン』を読む

エマニュエル・トッドさんの家族分類を大別すると、親子だけで構成される核家族、三世代で同居する直系家族、大家族をなして男(あるいは女)の子供たちの家族全部と親が同居する共同体家族となる。家族構成の変遷は、核家族で始まり、直系家族を経て、共同体…

リチャード・フラナガン著『奥のほそ道』を読む

帰りの電車の中で、職場の同僚から「今、イギリスでは、奥のほそ道という本が評判なんです」と教えてもらったことがあった。その彼が退職することとなり、スピーチを頼まれた。話す内容を探しているときに、この話を思い出した。彼はそのときは、どの様な本…

梶谷懐・高口康太著『幸福な監視国家・中国』を読む

犯罪関係のニュースを見ていると、犯人が分かる時間がとても短くなってきたように感じられる。街のいたるところに監視カメラが設置され、犯罪が起きた場所とその周辺で撮影された映像が、画像認識システムによって瞬時に分析され、犯人が高い確率で割り出さ…

中島隆博著『悪の哲学』を読む

万物の創造主は神であるとする宗教や神話は多いが、中国の人々は神に代わるものとして「気」を用いた。今日の日本語の中にも、空気・天気・気分・気配など気を用いた熟語は沢山あるが、これらの多くは「気」を語源としている。「気」は宇宙を生成・消滅・変…

丸橋充拓著『江南の発展』を読む

世界の中での日本のGDP比は、ピークであった1994年には17.9%を占めていた。それに対して中国は2.0%であった。しかしこの構図は今では完全に逆転し、2021年には日本は5.1%、中国は18.1%である。経済・軍事大国として勢いを増す中国から逃げようとしても、…

中島隆博著『荘子の哲学』を読む

小学校低学年であった孫と、桜吹雪の舞う小川に沿って家族で散歩していたとき、彼が風に舞う桜花に操られるように、あちらへこちらへ走り回り、やっと捕まえた数枚の花を、惜しげもなく川面に投げこんだ。透明に澄んだ水中では、春を楽しむかのように一匹の…

野口実著『源氏の血脈』を読む

今年はNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』のお陰だろう、鎌倉時代に関係するメディアの露出が目立っている。それに引き付けられて、いつの間にか鎌倉時代に関する本をたくさん読んでしまった。仲間と談笑しているときに、気が付けばいっぱしの鎌倉ツウであるかの…

藤田達生著『戦国日本の軍事革命』を読む

ウクライナへのロシアの侵攻が、多くの人々に戦争の現実を鮮明にさせてくれた。日本の戦国時代も同じように人々は戦争に明け暮れた日々を過ごしていた。そして戦国時代中頃のヨーロッパからの鉄砲伝来は、これまでの政治・経済・社会の体制に大きな変化をも…

大田由紀夫著『銭躍る東シナ海』を読む

最近になって中国や朝鮮半島との「関係」の中で、日本の歴史を論じる本が増えてきたようである。日本の歴史が孤立しているわけではないのに、隣接の地域との関連で論じない傾向にあることにずっと疑念を抱いていた。最近の流れはこれを打ち破るもので歓迎し…

早島大祐ほか『首都京都と室町幕府』を読む

一般に、歴史の本は出来事を辿りながら説明している場合が多い。室町時代であれば、観応の擾乱(1350-52)、享徳の乱(1455-83)、応仁の乱(1467-77)など、幕府を二分しての戦いを中心に描こうとするだろう。しかし出来事だけを追っていると、大きな流れを見逃し…

カルロ・ロヴェッリ著『世界は「関係」でできている 美しくも過激な量子論』を読む

本の副題が「美しくも過激な量子論」となっているので、量子力学について一般向けに分かりやすく説明した本だろうと勝手に思い込んで読み始めたら、期待は見事に裏切られた。アインシュタインもファインマンも理解できないと言った「不思議なことが起きる量…

辻本雅史著『江戸の学びと思想家たち』を読む

幕末から明治にかけての変革はすさまじいスピードで進行した。西洋の政治・経済・技術を取り入れてのものだが、全く異質の世界を、なぜかくも早く吸収できたのだろう。その真相を知りたくて、江戸時代の思想史をいろいろと読みあさっている中で、この本に出…

谷口雄太著『〈武家の王〉足利氏』を読む

先週の日曜日、鈴木由美さんの「中先代の乱」の講演があり、聞きに出かけた。この乱は、鎌倉幕府最後の将軍北条高時の遺児の時行が、その再興を目指して起こした乱である。鈴木さんは、このときの時行は10歳以下である、と述べられた。このような幼い子に政…

岡本裕一朗著『ポスト・ヒューマニズム テクノロジー時代の哲学入門』を読む

コロナウイルスに感染する人の数は、予想をはるかに超えて急激に減少し、多くの人は、この状態が維持されることを願っていることだろう。ところでコロナウイルスが終息したあとに訪れる世界は、起きるまえの継続なのだろうか、それともカタストロフィックに…

伊藤俊一著『荘園』を読む

伊藤俊一さんが書かれた『荘園』は高い評判を得ているようである。日本の中世の骨格をなしたのは荘園であるが、領主と農奴という単純な構造からなる西洋のそれと比較すると、土地が幾重にも権利化されいて実態を捉えにくい。また荘園に対する考え方も、かつ…

高橋哲哉著『デリダ 脱構築と正義』を読む

喉に刺さっていた魚の骨が取れた瞬間はほっとする。同じような気分を味わったのが、お彼岸のお墓参りのために、お供えの花を手に入れた瞬間だった。ジャック・デリダ(Jacques Derrida)の考え方がよくわからず、それを理解するために贈与に関係する参考資料を…

ユン・チアン著『西太后秘録 近代中国の創始者』を読む

1980年代の後半に公開された映画で、アカデミー賞9部門受賞の「ラストエンペラー」を見た人は多いことと思う。その導入部は、この映画の要約を表したものと思え、人生の浮き沈みの激しさを強烈に描き出している。清朝最後の皇帝溥儀(はくぎ)が、戦犯としてソ…

モンゴル帝国の歴史を多読、数理的な論文に

コロナウイルスは変異を繰り返し、今では感染力がとても高いデルタ株が猛威を振るっている。さらに変異を繰り返し、ワクチンが効かない変種が現れたら、困ったことに、戦いは振出しに戻ってしまう。雅な生活を送っていた平安貴族たちの前に突然武士が現れ、…

上田信著『伝統中国』を読む

グローバリゼーションによって、色々な国の人と付き合うようになった。文化が異なる人々とはそのつもりで構えるので、異質なことに出会っても気になることはない。しかし顔かたちでは区別ができず、漢字文化なので多くのことを共有していることだろうと思っ…

西谷正浩著『中世は核家族だったのか』を読む

住宅街を歩いていると、苗字が異なる表札がかかっている家が、割合に多いことに気がつく。かつての日本は、男系の直系相続だったため、異姓の親子が同居していることはまれであった。しかし近年の現象は、娘に老後の面倒を見てもらう親が多くなったため、異…