bitterharvest’s diary

A Bitter Harvestは小説の題名。作者は豪州のPeter Yeldham。苦闘の末に勝ちえた偏見からの解放は命との引換になったという悲しい物語

読書

佐藤雫著『言の葉は、残りて』を読む

この本は、鎌倉幕府第三代将軍・源実朝とその妻・信子の愛を主題としている。描かれるのは、武家の荒々しさではなく、王朝文化を思わせるような、雅で哀切なロマンスである。本書との出会いは、まさに偶然の産物であった。大学の図書館のオンライン検索で各…

氏家幹人著『江戸藩邸物語 戦場から街角へ』を読む

時代の変わり目にうまく対応できないと感じる人は、決して少なくない。情報社会に生きる私たちも例外ではなく、デジタル化の進展は目覚ましく、買い物ひとつとっても新しい手続きへの対応を求められる場面が頻繁にある。外食の場面でも同様で、近年では人手…

ヤニス・バルファキス著『テクノ封建制』をよむ

2012年、セルビア出身の経済学者ブランコ・ミラノヴィッチが発表した「エレファント・カーブ(象のカーブ)」は、世界に衝撃を与えた。このグラフは、1988年から2008年までの世界所得分布の変化を示したものであり、新興国の中間層の台頭と先進国の中間層の…

バーキー ・テズジャン著『第二のオスマン帝国: 近世政治進化論』を読む

ある人に勧められて『第二のオスマン帝国──近世政治進化論』を読んだ。オスマン帝国については、高校の世界史で学んだ記憶があるものの、知識としてはほとんど残っていない。本を読み返すことは滅多にしないのだが、今回は見慣れないカタカナの用語や馴染み…

会田弘継著『それでもなぜ、トランプは支持されるのか―アメリカ地殻変動の思想史』を読む

本書のタイトルからは、大衆向けの本のような印象を受けるかもしれない。しかし、実際には後半の内容こそが本来の趣旨であり、学術書に近い構成となっている。特に、アメリカの現在の政治と思想を理解するうえで有意義な一冊である。最近、ドナルド・トラン…

ジョエル・コトキン著『新しい封建制がやってくる―グローバル中流階級への警告』を読む

なんとも古めかしく、それでいて刺激的なタイトルの本だろう。かつては「封建的なオヤジ」という言葉もあったが、今はそれも死語になってしまった。封建的といわれても、それがどういうものであるかを感覚的に知っている人は少なくなってしまった。日本の社…

中野剛志著『政策の哲学』をよむ

アメリカトランプ大統領の相互関税の発表は、世界の株式市場に大きな影響を及ぼし、世界恐慌を招くのではないかとの危惧も抱かせている。今回の政策のベースとなっているのは、おそらく、スティーブン・ミラン氏が2024年11月に発表したマールアラーゴ合意で…

藤井一至著『土と生命の46億年史 土と進化の謎に迫る』を読む

土というタイトルを見たとき、あまり期待しなかった。空気や水と同じように身近な存在であるにもかかわらず、都市生活に馴染んでしまった私は、土に触れる機会はあまりない。外に出かける時は、舗装された道を歩くので、土のあの柔らかい感触を味わうことは…

細見和之著『フランクフルト学派 ホルクハイマー、アドルノから21世紀の「批判理論」へ』を読む

なぜ、人間は戦争をするのだろう。20世紀が終わる頃、資本主義陣営と共産主義陣営の間で繰り広げられた冷戦はソ連の崩壊によって終了した。これによって、世界に民主主義が広く行き渡り、平和を享受できる時代が迎えられると夢を抱かさせてくれた。しかし、…

田中史生編『日中関係史』を読む

日本と中国との関係は、世界の歴史の中でも最も長く続いている二国間関係の一つだろう。『後漢書』には、後漢の光武帝が朝貢してきた「倭の奴の国」に「印・綬」を与えた(西暦57年)という記載がある。そして、これに符合するとされる金印は、江戸時代に博…

田口善弘著「知能とは何か」を読む

高校生の頃、物理は悩ましい科目だった。授業で出てくる式がなぜ正しいのかが理解できず悩んだ。まるで、神の啓示でもあるかのように提示されるので、何も考えずに受け入れなければならないように感じ、それに反抗する感情さえ生まれた。半世紀以上も経って…

エルヴェ・ル・テリエ著『異常 アノマリー』と虚数との関連について

3年前、フランスの作家・テリエさんが書いた『異常 アノマリー』が日本でも評判になった。彼はフランスで最高峰の文学賞ともいえるゴンクール賞を、2020年にこの小説で受賞している。多くの書評で紹介されているので、読まれた方も多いことと思う。私も友達…

エマニュエル・トッド著『西洋の敗北』を読む

今回読んだ本を紹介しようと思って書き始めたが、書いても書いても、説明しきれないので、思い切ってものすごく短くまとめることにした。 今回の本で、エマニュエル・トッドさんは、宗教ゼロ状態という用語を新たに導入した。形式的に宗教行事に参加している…

スラヴォイ・ジジェク著『戦時から目覚めよ: 未来なき今、何をなすべきか』を読む

最近の選挙では予想外のことが時々生じるが、今回の兵庫県知事選挙は特にそうである。選挙が始まった頃は、聞いてくれる人が全くいない街頭で、候補者が一人寂しくマイクを握って演説していた。ところが、最終日には、彼の演説を聞くために、熱狂した何千人…

ジュリアーノ・ダ・エンポリ著『クレムリンの魔術師』を読む

魔術師という言葉から何を想像するだろう。指をパチンと鳴らすだけでモノを隠したり出したりと、変幻自在の芸を召せてくれるマジシャンだろうか。この本でのマジシャンはなにをしてくれるのだろう。クレムリンを操るようなすごい人について語っているのだろ…

宇野重規著『民主主義ってどこがいいの』を読む

民主主義の歴史は古いが、その足取りは軽やかなものではなくいばらの道で、隘路をやっと潜り抜けて、今日を迎えていると言える。将来も決して楽観することはできないが、これまでの足跡を検証して、今後に生かしていこうというのがこの本の趣旨である。冒頭…

斎藤幸平さんの『ゼロからの『資本論』』を読む

若いころは希望の国に思えたアメリカの昨今の厳しい分断を見ていると、どこかに構造的な欠陥があるのではないかと疑いたくなる。アメリカは、資本主義と民主主義とを最良の姿で実現した国と思われていた。しかし、今日大きくそれが揺らいでいる。19世紀に資…

沢木耕太郎著『深夜特急』を読む

友人が沢木耕太郎さんの本が面白く、すべてを近く読破しそうだと伝えてきた。私は現代作家にはあまり興味はなく、名前を聞いた程度の認識しかなかった。おそらく、三島由紀夫さんまでが限界で、それ以降の作家の本はほとんど読んだことはない。しかも、三島…

鹿毛敏夫著『世界史の中の戦国大名』を読む

いきなりだが、下の図(Wikipediaから)は、ヨーロッパ人が描いた戦国時代の日本の地図である。当時のヨーロッパ人が極東の日本に対してどのような認識を示していたかを示す貴重なもので、ここからはヨーロッパと日本の各地との交流の度合いも推察することがで…

デヴィッド・グレーバー&デヴィッド・ウェングロフ著『万物の黎明』を読む

早朝に目覚めてふとスマホの画面に目をやると、BBCのBreaking NewsでJoeが大統領選から離脱すると報じていた。13日にはDonaldに対する銃撃事件があり、短い期間に、世界の方向を変えかねない大きな事件が続いた。このような事件があるたびに、政治・経済・社…

ジョシュア・ヤッファ著『板ばさみのロシア人』を読む

高校生の頃か大学生の頃か定かではないのだが、学生時代に感銘を受けた書物の中に、ルイス・ベネディクトさんの『菊と刀』がある。文化人類学に関心を持っていた頃で、国ごとにあるいは地域ごとに行動が異なるのはなぜだろうと疑問に感じていた。ベネディク…

増田晶文著『稀代の本屋 蔦屋重三郎』を読む

来年の大河ドラマは蔦重三郎である。蔦重と愛称される彼は、歌麿や写楽など、この時代のエンターテイナーともいえる戯作者・絵師を生み出した。クリエイターにしてプロデューサーであり、また新しい時代を作り出した町人でもある。ドラマの主演は横浜流星さ…

江戸時代の百姓に関連した書物を読む

正月の人気番組の一つに駅伝がある。元旦は実業団のニューイヤー駅伝、2・3日は大学の箱根駅伝である。特に本人や家族に関係者がいるときは、応援に熱が入ることだろう。我が家もその例外ではなく、今年は両方とも好成績をあげたので、和やかに観ることがで…

東南アジア・南アジアに関する良書を読む

近年、東南アジア・南アジアの経済成長は著しく、ニュースでも明るい話題として報じられる機会が多くなってきた。これに刺激を受けて、この地域の歴史的な背景を知りたいと思い、関連する書籍を立て続けに読んでみた。最初に読んだのは、アンソニー・リード…

佐々木閑著『大乗仏教 こうしてブッダの教えは変容した』を読む

博物館を訪問する機会が増えるにしたがって、仏像を見る機会も多くなってきた。しかしそれぞれの歴史や意義を問われると答えに窮してしまうことのほうが多い。どうも仏教に関しての知識が頭の中で整理されていないことが原因のようだ。そこで手抜きをして重…

松里公孝著『ウクライナ動乱ーソ連崩壊から露ウ戦争まで』を読む

ロシアがウクライナに侵攻してから1年半が経ち、この戦いがいつ終わるのか、どのように収拾されるのかは不透明である。2006年にセルビアのベオグラードを訪問したことがある。街のところどころに砲弾の跡があったので驚いて尋ねたところ、90年代末のコソボ紛…

ジェイソン・ヒッケル著『資本主義の次に来る世界』を読む

熱せられた鉄板の上にいるような日が続いている。ニュースによれば、記録を取り始めてから最も暑い夏を迎えているとのこと。人間の活動が気候変動を引き起こしていると考えざるを得ないほどの異常さである。これ以上地球を痛めつけると、取り返しのつかない…

ウォルター・アイザックソン『コードブレーカー』を読む

4月に図書館に予約した本が、やっと貸し出してくれた。この本は上下2巻に分かれていて、今回入手できたのは下巻の方である。上巻の方は、順番待ちの人がまだ9人もいるので、月に2人ずつ減るとしても、入手は5か月後である。今年中ならば良い方だろう。人気の…

仲正晶樹著『悪と全体主義』を読む

この本はハンナ・アーレント(Hannah Arendt)さんの代表作『全体主義の起源』とニューヨーカー誌に発表した『エルサレムのアイヒマン―悪の陳腐さについての報告』を紹介したもので、著者(紹介者)は仲正晶樹さんである。アーレントは、ドイツ・ケーニヒスベル…

雪舟にみる室町時代の生き方

毎年恒例になっている研究会での年一回の発表をした。今回は、島尾新さんの『画僧 雪舟の素顔 天橋立に隠された謎』をベースにというよりも、この本に頼り切って、発表を行った。このため、島尾さんの著書の紹介ともいえるのだが、それでも室町時代の特徴を…