bitterharvest’s diary

A Bitter Harvestは小説の題名。作者は豪州のPeter Yeldham。苦闘の末に勝ちえた偏見からの解放は命との引換になったという悲しい物語

モンゴル帝国の歴史を多読、数理的な論文に

コロナウイルスは変異を繰り返し、今では感染力がとても高いデルタ株が猛威を振るっている。さらに変異を繰り返し、ワクチンが効かない変種が現れたら、困ったことに、戦いは振出しに戻ってしまう。雅な生活を送っていた平安貴族たちの前に突然武士が現れ、二度と王朝時代に戻ることができなかった歴史の節目を体験しているようで、恐ろしくさえ思われる。

昨年から今春にかけて、王朝の移り変わりが激しい中国の歴史に興味を抱き、それに関する本を多読した。前にも紹介したが、中国本土や台湾でも翻訳された講談社学術文庫の『中国の歴史』が、昨秋から電子版で出版されたので、毎月の出版日を楽しみに待ちながら、全12巻を講読した。水と油のような二層構造の中国の社会。水は土地にしがみついている農耕民、油は支配者として入ってきた王朝である。王朝は、数百年と長いこと続くこともあるが、数年であっという間に滅びてしまうこともある。農耕民は、生業の性質上、住処を変えることを好まないが、政権の気まぐれによって、遠く離れた場所へと徏民(しみん)させられたりする。

王朝が農耕民でなく、遊牧民であることも多い。モンゴル帝国はその一つである。中国の歴史を読み終わった頃、杉山正明さんの本を片端から読んだ。『大モンゴルの世界』『クビライの挑戦』『モンゴル帝国と長いその後』『疾駆する草原の征服者』など。モンゴル帝国の初代皇帝となるチンギス・カンは、渤海湾からカスピ海に至るユーラシア大陸の草原地帯を支配下におさめる。彼の孫で、5代皇帝のクビライは、南宋を滅ぼした後、元を樹立する。モンゴルの皇帝はこれまでは、遊牧民を支配していたが、中国を支配下にしたことで、農耕民の支配者ともなる。遊牧民の長が農耕民を統治するという、二層構造だ。杉山さんは、二層構造の統治を成功させるために、グローバリゼーションを創造・実現したと説明している。すなわち、農耕民と遊牧民との融和を図り、陸路そして海路を利用しての国内外の交易を活発にしたと考えられている。浅学の身で失礼なのだが、理にかなった考え方だと納得した。

これらの本を読んでいる頃、コロナ以後の世界がどのようになるかについて多くの学者が語り始め、その中にマルクス・ガブリエルがいた。彼は、新実在論で知られ、29歳でボン大学の教授になり、注目を浴びている天才哲学者だ。興味を持ったので、『なぜ世界は存在しないのか』を読んでみた。残念なことにさっぱり理解できない。理解できるようにするためには、新実在論に至るまでの哲学の変遷を知る必要があると考え、実存主義の後の構造主義ポスト構造主義を調べた。そして構造主義を始めたクロード・レヴィ=ストロースと、ポスト構造主義へと転向したミシェル・フーコーが、歴史の中に数理的な考え方を導入していることを知った。

そうこうしているうちに、昨年亡くなられた高名な先生の記念論文を発行することになったので、ぜひ投稿して欲しいと持ち掛けられた。退職しこの分野からは離脱しているのでと断ったのだが、いろいろな理由をつけられて、論文を書かざるを得ない羽目になった。その中身は、今話題に挙げたクビライのグローバル化を、二人の哲学者に倣って数理的に記述することにした。四苦八苦しながらもやっと書き上げ、無事に受理され、今月からオンラインで掲載されている。また学術雑誌としても今秋には発行される。さらに、国際会議での招待論文としての発表も義務付けられていた。この会議は来月ジュネーブで開催されるが、コロナ禍のため、オンラインでの会議となった。通常であれば、秋のスイスを楽しめたはずなのだが、残念である。また、オンライン会議中にトラブルがあった場合に備えて、あらかじめ、発表用のビデオを作らされた。こちらの方は昨日送った。ただ、YouTubeでビデオを見られるようにしたいということであった。自分の声が多くの人に聞かれるのは憚れるので、こちらの方は音声合成でのスピーチとした。

英文の校正にはDeepLやGrammarlyを利用した。DeepLは、日本語から英語への翻訳では、複数の例が提示されるので、表現に困った時は役に立つ。また、英文が意図したように記述されているかを知りたいときは、日本語に翻訳してみるといい。日本語での表現が、思ったようになっていないときは、ダメということになる。Grammarlyは、文法のチェックから表現の不自然さまで教えてくれる。有料版では候補を提示してくれるが、お金のない身ではいろいろと試みることとなる。とくに単調や不統一と指摘されているときは、文全体の構成を変えることとなり一苦労する。

音声合成は、マイクロソフトの音読を利用した。パワーポイントで、ノートの部分に説明文を書き込み、音読でノートを読ませてビデオを作ればよい。これはとても便利で、図を変えたり、説明を加えたりを反復することで、思い通りのビデオを短時間で作ることができる。ただし、音読は日本語対応となっているので、英文の場合には、英語対応に変える必要がある。これをしないと、英語を習ったばかりの日本人発音で音読される。これはこれで面白いが、多くの人に聞いてもらうには恥ずかしい。ネイティブスピーカーでの音読にするためには、音読者を選択するためのプログラムを自作する必要がある。

これまで、AI技術をそれほど高く評価していなかったが、今回はからずも、翻訳と音読でAIに助けてもらい、技術の進歩はすごいと感心している。