bitterharvest’s diary

A Bitter Harvestは小説の題名。作者は豪州のPeter Yeldham。苦闘の末に勝ちえた偏見からの解放は命との引換になったという悲しい物語

身近な存在としての量子力学(7):ケット

6 ケット

量子力学は、光子や原子あるいは電子などとても小さな世界を扱う。微小な世界を構成しているこれらは粒子と呼ばれる。

量子が存在しない世界は真空の世界である。粒子が存在する場合には、どこに存在しているのかを考えなければならない。ここでは、話を簡単にするために、3次元の世界ではなく1次元の世界(直線上)で考えることにしよう。そして、さらに簡単にするために、直線を幅\(d\)で区切ることとする。この時、\(l\)番目の区間は、\((l-\frac{1}{2})d \leq x < (l+\frac{1}{2})d \)とする。そしてこの区間を\(l\)番目の格子点と呼ぶことにする。なお、直線は\(-\infty < x < \infty\)とする。
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6.1 ケットとは

量子力学では、粒子がどこに存在しているかは、ケット\( |>\)で表す。\(|\)と\(>\)の間には状態を書く。状態の表現は一意的ではなく、約束を決めて表す。ここでは、西野友年著『今度こそわかる場の理論』での記述に従って、それぞれの格子点に存在する「粒子の数」を並べて表現することとする。次のようにする。
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0番目の場所を示すために上にドットを置くが、真空の状態は粒子がどこにもないので、
\( | ...00 \dot{0} 000...>\)
と表す。
また、1番目の区間に1粒子がある場合には、
\( | ...00 \dot{0} 100...>\)

複数の粒子がある場合は次のようになる。
例えば、1番目の区間と3番目の区間にそれぞれ1粒子ある場合には、
\( | ...00 \dot{0} 10100...>\)
また、3番目の区間に2個の粒子がある場合には、
\( | ...00 \dot{0} 00200...>\)

なお、全ての値が0であるものは、特別に、\(|0>\)とも書き表せるものとする。先の、真空の状態はこれに当たる。

ケットの状態の表し方は冒頭で述べたように一様ではない。粒子が本当に存在する場所に対して、これまで述べてきたようにその数をあてはめることもできる。しかし、相対的な粒子の増減を表す場合にも用いることができる。例えば、一次元の結晶があったとする。それぞれの原子は\(n\)個の電子を有していることが安定状態であるとする(即ち、この場合には、安定状態が\(|0>\)である)。

この時、3番目に位置する結晶に余分な電子が一つ飛び込んできたとする。この時、増加部分だけを表したケットは次のようになる。
\( | ...00 \dot{0} 00100...>\)


また、安定状態にあった結晶から、1番目に位置する結晶から電子が飛び出してしまい、そこに空隙ができたとする。これは次のように表すことができる。
\( | ...00 \dot{0} (-1)00...>\)

6.2 生成・消滅演算子

ケットは粒子の状態を表しているが、それに作用させて変化させたい。即ち、粒子を付け加えたり、取り去ったりする操作をしたい。前者を生成演算子、後者は消滅演算子と呼ばれる。生成演算子は\(\hat{a}^\dagger\)で、消滅演算子は\(\hat{a}\)で表す。

いま、\(l\)番目の格子点に粒子を一つ増やす操作を\(\hat{a}^\dagger_l\)で表すこととする。この操作の例をいくつか示そう。
\(\hat{a}^\dagger_1\)\(|0> = | ...00 \dot{0} 100...>\)

\(\hat{a}^\dagger_1\)\(|...00 \dot{0} 00100...> = | ...00 \dot{0} 10100...>\)

\(\hat{a}^\dagger_3\)\(|...00 \dot{0} 00100...> = | ...00 \dot{0} 00200...>\)

次に、\(l\)番目の格子点から粒子を一つ減らす操作を\(\hat{a}_l\)で表すこととする。しかし、粒子の数が0であるところに消滅演算子を作用させた場合には、-1になるのではなく、状態そのものがなくなってしまうということにする。状態そのものがないことを0と表すこととする。いくつかの例を示そう。

\(\hat{a}_3\)\(|...00 \dot{0} 00100...> = | ...00 \dot{0} 0000... = | 0>\)

\(\hat{a}_1\)\(|...00 \dot{0} 00100...> = 0\)

次の記事では、ケットをHaskellで表すことと考える。