bitterharvest’s diary

A Bitter Harvestは小説の題名。作者は豪州のPeter Yeldham。苦闘の末に勝ちえた偏見からの解放は命との引換になったという悲しい物語

2026-01-01から1年間の記事一覧

朱喜哲著『バラバラな世界で共に生きる』を読んで──内と外のあいだを生きる私の経験

小学校の高学年のころ、東京の郊外から地方の町はずれにある小学校へ転校した。それまでクラスの仲間たちは互いを名字で呼んでいたが、転校先では名前で呼び合うのが当たり前だった。名前で呼ばれる相手といえば、家族や親戚、近所のおばさんくらいだった私…

英文の構文に悩んだ学生時代、生成AIに助けられる今──『The Ride of Her Life』を読む

学生の頃、英語の学習で一番苦労したのは、構文の解析でつまずくことであった。英文法の知識をすべて頭に詰め込んでいるわけではないので、複雑な英文に出会うと、文章の構造を解析し、文法書と照らし合わせながら読み進めることになる。しかし、そこで得ら…

運命に向かって歩み出す勇気──『The Ride of Her Life』を読む

医者から余命いくばくもないと告げられ、これまでの生業(なりわい)を続けることもできず、頼れる家族も親類もいない。人をここまで追い詰める状況に置かれたとき、あなたならどうするだろうか。ほとんどの人が「まさか、そんなことはしない」と思うような…

安藤優一郎著『幕末下級武士のリストラ戦記』を読む

東京の地名には、江戸時代の名残をとどめるものが少なくない。上野駅の南隣、東京駅寄りの次の駅は御徒町(おかちまち)である。その線路沿いの高架下には、年末のテレビニュースで必ずといってよいほど取り上げられるアメヤ横丁が広がる。第二次世界大戦後…

落合恵美子著『21世紀家族へ(第4版) 家族の戦後体制の見方・超えかた』を読む

子どものころ、何よりの楽しみは普段とは異なる経験ができる夏休みであった。次に楽しみだったのはお正月である。もちろん珍しい正月行事を味わえることも理由の一つだが、最大の魅力はお年玉だった。父は十二人兄弟、母も六人兄弟だった。祖父(祖母は両家…

「誇り」の失墜とコミュニティの再建──アーリー・ホックシールド『盗まれた誇り』を読む

「武士は食わねど高楊枝」というフレーズを覚えているだろうか。私がまだ学生だったころ、少し背伸びした料理を勧められて気後れしたとき、この言い回しでその場を凌いだことがある。黒澤明監督の映画『用心棒』(1961)で、三船敏郎演じる素浪人・桑畑三十…

町田市薬師池公園で、大賀ハスを愛でる

7月中旬、町田市の薬師池公園に古民家を見に訪れた際、咲き始めたばかりのハスの花を目にした。それから一か月が過ぎたので、さすがに盛りは過ぎているだろうと思っていたところ、「今が見頃です」という思いがけない記事を見つけた。ハスの花は朝方に咲き、…

リベラリズムの行き着く先──自由と共同体は本当に対立するものなのか

昨今の世界の状況を見ていると混乱ばかりが目に入り、「これから社会はどうなってしまうのか」と強い不安を覚える。このような思いを抱いているのは、私一人ではないだろう。実際、その関心の高まりを示すかのように、リベラリズム*1の危機や、そのあり方を…

パトリック・J・デニーン著『リベラリズムはなぜ失敗したのか』を読む

現在のアメリカ政治の行方に関心を寄せる人々にとって、2026年6月は見逃せない時期であった。2018年に『リベラリズムはなぜ失敗したのか』を刊行し、大きな反響を呼んだノートルダム大学の政治学者パトリック・デニーン教授が初来日し、各地の大学や団体で講…

戦国から江戸へ ― 古民家が語る多摩丘陵の暮らしと建築の変化 ―

歴史的建造物として知られる城や寺院を訪ねると、その時代を代表する建築技術や意匠に触れることができる。時には、その精巧さに感嘆することもある。しかし一方で、庶民がどのような家に住んでいたのかにも強い興味を覚える。庶民の住宅には、当時広く用い…

迎賓館赤坂離宮を訪ねる

ニュース映像で外国の賓客を迎える迎賓館赤坂離宮(以降、迎賓館とする)を目にすることはあったが、実際に訪れたことは一度もなかった。そもそも一般公開されていることすら知らなかった。昨年知り合った仲間たちと「東京の街歩きを楽しむ会」を作り、楽し…

ジョセフ・スティグリッツの『資本主義と自由』を読む

今年に入り、中東ではアメリカとイランをめぐる軍事的緊張が高まり、地域紛争の拡大が強く懸念される状況が続いている。また、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、四年が経過した今なお戦況が膠着し、出口は依然として見えない。国際社会は、…

早朝の恩田川散策と夏の風景

東京ではまだ梅雨明けが発表されていない。ひところの梅雨空から一転して、この頃は晴れ間がのぞき、堪えがたいほどの蒸し暑さが続いている。日中はクーラーをつけっぱなしにし、本を読んだりパソコンに向かったりしながら、家に閉じこもることが多い。唯一…

薬師池公園・旧永井家住宅を訪ねて──古民家が伝える暮らしの記憶

先日、機会があって町田市の薬師池公園にある古民家「旧永井家住宅」を訪ねた。1974年(昭和49年)に移築された建物である。思い返せば、その5年前には、当時住んでいた川崎市で「日本民家園」が開園し、見学に行ったことがあった。どうやらこの頃から全国的…

ディートンの「大脱走」を読む──独立宣言250年とアメリカの理念と現実

7月4日はアメリカにとって特別な日であり、イギリスからの独立を祝う記念日である。今年は独立宣言公布から250周年という節目の年でもある。しかし、この日を迎えるアメリカ人の表情には、必ずしも晴れやかな喜びが満ちているようには見えない。独立宣言が掲…

フランシス・フクヤマ著『リベラリズムへの不満』を読む ──自由の変容とアメリカ分断の深層──

民主主義の危機としての議事堂襲撃事件 トランプ政権以降、あまりにも衝撃的な政策や出来事が相次ぎ、過去の出来事が記憶から薄れそうになる。しかし、決して忘れてはならないのが、2021年1月6日に起きた連邦議会議事堂襲撃事件である。民主主義の模範とされ…

個人の自由とコモングッド──『空白の一日』から現代アメリカの分断を考える

■ はじめに:古くて新しい問い 個人の自由と共同体の利益は、どこで折り合いをつけるべきなのか。この問いは古くから政治思想の中心にあり続けてきた。しかしそれは政治や経済だけでなく、多くの人々が熱狂するスポーツの世界にも顔を出す。半世紀以上前、日…

湯島天満宮参拝記──坂の由来から台地の地形へ

本郷での用事を済ませた帰りに、初めて湯島天満宮に参拝した。この神社は、入学試験が近づくと多くの受験生が合格祈願に訪れることで知られている。私も高校・大学と受験を経験しているので、本来ならばそのような機会があってもよさそうなものだが、当時は…

十九世紀日本が生んだ一人の女性──『Stranger in the Shogun’s City』を読んで

日本近世史を研究するエイミー・スタンリー(Amy Stanley)が著した『Stranger in the Shogun’s City: A Woman’s Life in Nineteenth-Century Japan』は、2021年のピュリッツァー賞(Biography 部門)のファイナリストにも選ばれた評価の高い書物である。そ…

「開港時に領事館が設置された神奈川宿」ガイド用のパンフレット

東海道三番目の宿である神奈川宿を案内した。宿場町としての面影はほとんど失われているものの、江戸時代末期に領事館として利用された寺院の多くが現存しているため、激動の開港期の歴史を辿ることができる。今回ガイドしたのは、歴史博物館でともにボラン…

絵図と現在を重ねる神奈川宿散歩──『金川砂子』を手がかりに

来週、神奈川宿をガイドすることになっている。神奈川宿を歩くと、わずか数百メートルのあいだに景色が大きく変わる。低地の川沿いから台地の縁へと道が折れ上がり、視界が一気に開ける。この地形の変化こそが、神奈川宿の歴史や街並みを形づくってきた背景…

東高根森林公園──多摩丘陵に残る原生の森と里山の記憶

先日、東京都埋蔵文化財センターを訪問し、多摩ニュータウン地域における縄文時代から現代に至るまでの歴史について話を伺った。なかでも特に印象深かったのは、江戸時代における産業の変遷と景観の移り変わりである。当時、この地域でも江戸の消費市場向け…

南三陸から松島へ ― 震災の記憶と文化景観をめぐる旅

三陸海岸の旅もいよいよ最終日となった。この日は、南三陸町で震災からの歩みを伝える「震災復興祈念公園」と、日本三景の一つである松島を訪ねる予定である。行程は今日も盛りだくさんだ。 (図:南三陸町から松島海岸へ)三日目ともなると、ツアー参加者の…

海と祈りの岸辺で──三陸鉄道から陸前高田へ

三陸海岸の旅も二日目を迎えた。この日は、NHKの朝ドラで一躍有名になった三陸鉄道への乗車に始まり、極楽浄土を思わせる浄土ヶ浜、そして震災からの復興を遂げつつある陸前高田を巡り、南三陸町へ向かって宿泊するという行程である。天気予報は雨だったが、…

断崖とリアスのあいだで──三陸が教えてくれた地球の記憶

東日本大震災から年月が過ぎた今、被災地がどこまで復興しているのか気になっていた。ちょうど三陸海岸を巡るツアーがあり、参加して自分の目で確かめてみようと思った。 おそらく中学生のころだったと思うが、社会科の先生から「三陸地方はリアス式海岸で、…

佐藤彰一著『宣教のヨーロッパ 大航海時代のイエズス会と托鉢修道会』を読む

作品『沈黙』と問題意識の提示 江戸時代初期、幕府はキリスト教を禁制とし、信徒に対して激しい弾圧を加えた。『沈黙―サイレンス』は、遠藤周作の小説『沈黙』を原作とする映画であり、信頼する司祭が棄教したという噂の真偽を確かめるため、日本へ密入国し…

戸塚宿を歩く ― 地形と浮世絵が語る歴史の道

初夏の爽やかさを味わえる季節になった。だが近年は、気候変動の影響もあってか、この心地よい時期がずいぶん短くなっているように感じる。澄んだ空気と柔らかな陽射しに包まれるひとときは、いまではどこか貴重なものになりつつある。そんな五月のある日、…

パンフレット「山手・山下公園を散策する」

横浜の山手と山下を、生涯教育のプログラムで知り合った仲間たちに案内した。ゴールデンウィークも終わり、平日だというのに街は人で溢れかえっていた。初夏を迎え、夏日となる日も多くなってきたが、乾燥したさわやかな空気の中、木陰に入るとひんやりとし…

ブラフの丘から山下へ ― 薔薇の横浜散策

来週、横浜市の人気スポットである山手と山下を案内することになっている。どちらも季節を問わず人が訪れる場所だが、バラが美しい五月はとりわけ賑わう。しかし山手と山下は、名前は似ているが、成り立ちはまったく異なる。山手は太古の海岸地形が隆起して…

多摩丘陵の原風景を歩く――長沼公園と古相模川の痕跡

ゴールデンウィーク最後の日、八王子市の長沼公園を訪れた。東京郊外では宅地造成が盛んに進み、丘陵地や台地の多くがかつての面影を失ってしまった。そのような中にあって、長沼公園は多摩丘陵本来の姿を今に伝える貴重な場所である。 (図:長沼公園と周辺…