bitterharvest’s diary

A Bitter Harvestは小説の題名。作者は豪州のPeter Yeldham。苦闘の末に勝ちえた偏見からの解放は命との引換になったという悲しい物語

2025-12-01から1ヶ月間の記事一覧

佐藤雫著『残光 そこにありて』を読む

小栗忠順(おぐりただまさ)ほど、生前の行動と死後の評価が大きく揺れ動いた人物は多くない。幕末という激動期において、彼は旗本として将軍家を守る義務を負いながらも、同時に近代国家形成の基礎となる施策を推進しようとした。その二重の要請の狭間で模…

外交と戦後復興の舞台――旧吉田茂邸を訪ねて

初冬の訪問 初冬の寒空の日、私は旧吉田茂邸を訪れた。いまや彼の名を即座に思い浮かべる人は、決して多くはない。団塊の世代と呼ばれる私たちにとっても、小学校に上がるか上がらない頃に首相だった人であり、記憶はほとんどない。すでに歴史上の人物となり…

きらびやかに送る──藤ノ木古墳の被葬者と副葬品の世界

旅の締めくくりに訪れたのは、橿原考古学研究所附属博物館であった。ちょうど秋季特別展「きらびやかに送る ― 国宝・藤ノ木古墳出土品修理事業成果展 I」が開催されていた。藤ノ木古墳は奈良県斑鳩町に所在する6世紀後半築造の円墳で、直径は約48メートルに…

キトラ古墳ーー東アジアの宇宙観を石室に凝縮した終末期古墳の結晶

キトラ古墳の発見は、静かな明日香の地に突如として驚きを呼び起こした。1983年、石室から壁画が確認されたという報は、研究者たちの心を強く震わせた。すでに高松塚古墳の壁画発見から十年が経過しており、「第二の壁画古墳」として紹介されたキトラ古墳は…

石と水と祈り――酒船石紀行

飛鳥宮跡の見学を終え、昼食にはまだ少し早い時刻だったので、近くの丘陵へ足を向けた。そこに佇むのは、古来より「酒船石」と呼ばれる不思議な巨石である。表面には複雑な溝と窪みが刻まれ、まるで液体が流れる道筋を描くように設計されている。かつては濁…

飛鳥宮──古代国家の原点

飛鳥を歩くと、そこかしこに古代国家の痕跡が息づいている。なかでも今回訪ねた飛鳥宮跡は、日本古代国家の原点として知られる場所である。その舞台であった飛鳥宮は人々の心に今も残る「ふるさと」であり、古来、数多くの歌に詠まれてきた。奈良県立万葉文…

石舞台古墳を訪ねて

ここで紹介するのは、石舞台古墳である。地表にむき出しとなった巨大な石組みは、見る者に圧倒的な存在感を与え、古来、さまざまな物語や伝承を生み出してきた。まずは、その中でもよく知られるものをいくつか拾ってみたい。地域に残る伝承 この古墳には、地…

精緻な石組みに息を呑む――飛鳥・岩屋山古墳を訪ねて

この日は、今年のなかでも指折りの好天に恵まれた。空には雲ひとつなく、初冬の冷たさを和らげるようにやわらかな陽光が体を包み込む。奈良盆地東南の端、古代国家成立の舞台となった飛鳥が、今日の目的地である。旅の起点は飛鳥駅。電車が到着するたび、バ…

地震崩落が守った古代の記憶――黒塚古墳を訪ねて

雲一つない晴れ空の下、古代に生きた人々へ思いをはせながら、古墳巡りを続けた。ここで、前回触れたオオヤマト古墳群について改めて整理しておきたい。この古墳群は奈良盆地東南部に広がり、古墳時代前期を代表する遺跡群である。築造時期は3世紀末から4世…

古墳時代の始まりを告げる『纏向古墳群』

奈良盆地の東南部には、ゆるやかに盛り上がる丘状の地形が点在している。しかし、その多くは自然の造形ではなく、古代社会における権力の証として築かれた古墳である。弥生時代末期、唐古・鍵遺跡に営まれたムラが衰退すると、より複雑な階層構造を備えた「…

奈良盆地に立ち上がる弥生の記憶:唐古・鍵遺跡を訪ねる旅

11月末の穏やかな晴天に恵まれた週末、奈良盆地南部を訪れた。弥生時代から飛鳥時代にかけての遺跡を巡る旅である。半世紀以上前、就職したばかりの頃にも旅をした記憶がある。しかし当時は歴史の知識も乏しく、ただ「見るだけ」で通り過ぎてしまった。退職…