bitterharvest’s diary

A Bitter Harvestは小説の題名。作者は豪州のPeter Yeldham。苦闘の末に勝ちえた偏見からの解放は命との引換になったという悲しい物語

風にめげずに同じ位置に落下するには

今年の夏はとても暑く、家から駅へと歩く短い時間でも、かなりの体力を奪われてしまう。このため、日中は本当に必要な時以外は家から出ず、早朝の散歩だけにとどめている。しかし、お盆を過ぎると流石に朝方は涼しさが感じられるようになり、頭の体操に勤しむ余裕が出てきた。今日考えた問題は、走行者は風によってどのような影響を受けるのだろうという問題である。100mを10秒で走る人が、順風を受けた時に同じ時間で着くようにするためにはどれだけサボれるのか、あるいは、逆に逆風を受けた時はどれだけ一生懸命走らなければならないのかという問題である。

問題を簡単にするために、引力と風以外からは影響を受けないこととした。490メートルの高さの崖から、水平方向に秒速10mで飛び出したとする(これは、100mを10秒で走る速さで時速36kmである。短距離の選手は少し遅い車並のスピードで走っていることが分かった)。そうすると、10秒後には丁度地面に着地(?、おそらく激突)し、崖からの距離は100mとなる。もちろん無風で空気などの抵抗もなく、秒速10mで水平方向に移動し続けるという理想的な条件のもとである。

さて、それでは秒速0.5m(分速30m、台風の暴風域は風速25m/s以上なので、台風の中で走るようなものだ)の風が常に吹いている時は、どれだけの速さで崖から飛び出せば、同じ地点に到達できるのだろうか。水平方向に飛び出しているので、落下時間に影響は出ず、どのスピードで飛び出したとしても、着地するまでにかかる時間は同じである。今回の例では10秒となる。

落下については10秒で490m降下すると先に説明した。ここでは、最初にこれが正しいのかを検討してみよう。地上でものが落下すると、1秒経つごとにその速度は9.8mずつ増える。すなわち、その速度は1秒後には9.8m/sとなり、2秒後には19.6m/s、さらに3秒後には29.4m/sとなる。そして、10秒後には98m/sと新幹線を上回るすごい速度になる。それでは10秒後には何メートル落下しているのだろう。

最も荒っぽい近似は、最初の1秒間は1秒後の速度で落下し、次の1秒間は2秒後の速度で落下し、これ以降も同じだとする。このように仮定すると次のようになる。

落下した距離$=9.8 \times 1.0 + 19.6 \times 1.0 + 29.4 \times 1.0 + ... + 98.0 \times 1.0=539.0$となる。

あまりにも近似が荒すぎるので間隔を0.5秒ごとにすると次のようになる。
落下した距離$=4.9 \times 0.5 + 9.8 \times 0.5 + 14.7 \times 0.5 + ... + 98.0 \times 0.5=514.5$となる。

さらに、間隔を0.25秒にすると、
落下した距離さ$=2.45 \times 0.25 + 4.9 \times 0.25 + 7.35 \times 0.25 + ... + 98.0 \times 0.25=502.25$となる。

最後に、間隔を0.125秒にすると、
落下した距離$=1.225 \times 0.25 + 2.45 \times 0.25 + 3.675 \times 0.25 + ... + 98.0 \times 0.25=496.125$となる。

これまでの過程を示すと図のようになる。なんとなく、グラフ$y=9.8x$の下部の面積を求めているようには見えないだろうか。

これを確認してみよう。今、間隔を$dt$とし、引力(加速度)を$g=9.8$とし、落下時間を$T=10.0$とする。この時、分割数を$ n $とすると$n=T/dt$である。従って、
落下した距離

\begin{eqnarray}
&=& g dt^2 + 2 g dt^2 + 3 g dt^2 + ... + n g dt^2 \\
& = & (1 + 2 + 3 + ... + n) g dt^2 \nonumber \\
& = & \frac{1}{2} n (n + 1) g dt^2 \nonumber \\
& = & \frac{1}{2} g n dt ( n dt+ dt) \nonumber \\
& = & \frac{1}{2} g T^2 ( 1 + 1/n) \nonumber \\
\end{eqnarray}

分割数を無限大にすると$ 1/n $は限りなく0に近づくので、
落下した距離$= \frac{1}{2} g T^2 $となる。即ち、落下した距離は、その時の時間までのグラフ$y=9.8x$の下部の面積となることが証明できた。

この式は、一般化すると次のようになる。落下した距離

\begin{eqnarray}
&=& \lim_{n \to \infty} \sum_{i=0}^{n} \ i g dt^2 \\
\end{eqnarray}
等分した時に与えた番号ではなく、実際の値を用いることにする。そこで、$x=i T / n, dx=dt $とすると、
\begin{eqnarray}
&=& \lim_{dx \to 0} \ \sum_{x=0}^{T} g x dx \nonumber \\
&=& \int_{x=0}^{T} \ g x dx \nonumber \\
&=& g \left[ \frac{1}{2}x^2 \right]_0^T \nonumber \\
&=& \frac{1}{2} g T^2 \nonumber \\
\end{eqnarray}

それでは、順風・逆風で490mの高さから、風速$ α $の下で、速度$ v_0 $で飛び出したとする。この時、$ t $秒後の速度は$v = v_0 + α t$である。この時、水平方向の崖からの距離は、引力の場合と同じようにして求めれば、$x = v_0 t + 1/2 α t^2 $である。

順風の時、$α=0.5$ なので$10 v_0 + 1/2 \times 0.5 \times 100 =100$なので、$v_0 = 7.5 $となる。
また、逆風の時、$α=-0.5$ なので$10 v_0 - 1/2 \times 0.5 \times 100 =100$なので、$v_0 = 12.5 $となる。

下図にそれぞれを示す。橙が逆風($-0.5m/s$)、青が無風、緑が順風($0.5m/s$)で、横軸が水平方向、縦軸が高さ方向である。

散歩の時間は1時間、問題を設定するまでに1/3ぐらい費やし、どのように解いたら良いのかを探すのに同じように1/3使い、残りの時間で実際に数値を入れながら頭の中で計算する。納得する解が得られた時は良い散歩をしたと思うが、そうでないと次の日に再度挑戦となる。今回は、加速度にはどのような性質があるのかを考え出すのにかなりの時間を費やした。物理学での理論を離れて、経済学や社会学などの他の分野で加速度と同じ概念はなんだろうと考えることはなかなか面白かったが、まだまだまとまっていない。話ができるようになった時、触れてみたいと思っている。