bitterharvest’s diary

A Bitter Harvestは小説の題名。作者は豪州のPeter Yeldham。苦闘の末に勝ちえた偏見からの解放は命との引換になったという悲しい物語

キャスト・アウェイ (Cast Away) - 4年間の無人島での漂流生活の後に彼を待ち受けていた不条理な運命!

今回紹介する映画は2000年制作のトム・ハンクス演ずるキャスト・アウェイだ。

俳優の役作りはすごいなあと感じさせられる時がある。この映画もその一つだ。映画が始まるとすぐに、宅急便のトラックからトム・ハンクス扮するチャックが下りてくるが、こんなに大きな図体だったかと疑問を抱かせ、思わず尋ねたくなる場面がある(写真は少し後の場面でロシアで仕事に従事しているときのもの)。
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後で調べると、中年太りの男性を演ずるために50ポンド(23Kg)も体重を増やしたそうだ。

そして、ビジネスマン役での場面どりを終了した後、1年間ほど撮影を中断し、その間に髪や髭をぼうぼうにはやし、無人島での役に備えたとのことだ。
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タイトルのキャスト・アウェイは、「世の中から見捨てられた人」、あるいは、「船が難破したため漂流させられた人」を意味する。飛行機が海上に不時着し、救命ボートで無人島に到着し、そこで、4年間の孤独な生活を送ることになるので、「漂流者」と訳すのがよいと思う。しかし、無人島での生活の後に待ち受けているのは不条理な現実だ。観客が最も心を打たれる場面はここなので、この部分を強調すると、「見捨てられた人」と言いたかったのではと感じさせられる。

映画のあらすじは次のようになっている。

クリスマス・パーティーをしている最中に、緊急の仕事が入ったチャックは、恋人のケリー(ヘレン・ハントが演ずる)に大みそかには帰ってくると言って、貨物便に乗り込む。その時、ケリーの祖父からの形見である懐中時計がクリスマス・プレゼントとして渡される。そして、時計のふたの裏側にはケリーの写真が貼ってある。

運の悪いことに、飛行機は太平洋上で墜落し、チャックは救命ボートで無人島に漂着する。待っていたのは、生きていくための過酷な戦いと、襲ってくる孤独との葛藤である。バレーボールについた手形の血判に目や口を描き、ウィルソンと名付けて仲間として擬人化し、ケリーの写真に望みを託して、4年間生き抜く。
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映画のほとんどは4年間の無人生活が占めており、トム・ハンクスが素晴らしい演技をする。

やっとの思いで故国に戻るが、4年間という歳月は残酷である。思い焦がれていたケリーは、すでに結婚していて子供もいる。

帰国した後、チャックは思い切ってケリーに会いに行く。彼女の自宅での会話がこの映画の中で最も感動する場面だが、ここは読者に残しておこう。ただし、最後の場面は次のようになっている。彼が去ろうとして車を走らせ始めたとき、激しい雨の中をケリーが走って追ってくる。二人は抱き合い、そして、ケリーは車に乗り込む。この時のケリーの演技が圧巻で、激しい心臓の鼓動に伴って、上半身が強く脈動する。ケリーのきっぱりとした決断が伝わってくる。
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二人はこのまま走り出すのかと思った瞬間、チャックが言う。

"You have to go home."
「家に戻りなさい。」

場面は変わって、チャックが友人にこの時の決着について説明する。

"We both had done the math, and Kelly added it all up."
この文章は意訳しないと分かりにくい。直訳すると、「二人とも計算したんだ。そして、ケリーは合計を得るまであれもこれも加えたのだ。」となるのだが、分かったようで、分からない気分にさせられる。使われている単語は易しいのだが、すんなりと頭に入ってくる表現ではない。

このため、頭をひねって考える必要がある(この「ひねる」という日本語の表現は同じように外国人には通じにくい)。計算するということは、頭脳をフル回転させるという意味に転じる。合計を得るまであれもこれも加えたということは、様々なことを考慮に入れて納得のいく結論を出すという意味に転じる。従って、
「二人とも熱心に考えたのだ。そしてケリーはケリーなりに納得のいく結論を導き出した。」

"She knew she had to let me go."
「ケリーは俺を去らさせなければいけないと分かっていた。」
"I added it up, knew that I'd lost her."
「俺も納得のいく答えを出した。ケリーを失うということを分かっていた。」
"'Cause I was never gonna get off that island."
「だって、島からは決して脱出できないのだから。」

そして、チャックは無人島で考えていたことを話し始める。
"I was gonna die there, totally alone."
「たった一人で、島で死んでいくだろう。」
"I mean, I was gonna get sick or I was gonna get injured or something."
「そう、病気になるか、怪我をするか、あるいは、他のことで。」
"The only choice I had, the only thing I could control was when and how and where that was gonna happen."
「俺が持っている唯一の選択は、俺が意図的にできる唯一のことは、いつ、いかにして、どこで、それを行うかということだけだ。」
"So I made a rope."
「そこで、ロープを作った。」
"And I went up to the summit to hang myself."
「そして、首つり自殺するすためにいただきに行った。」
"But I had to test it, you know ?"
「でも、まず試してみる必要があった。」
"Of course."
「もちろん。」
"You know me."
「俺の性分を知ってるだろう。」
"And the weight of the log snapped the limb of the tree."
「(身代わりに使った)丸太の重さが木の枝を折ってしまった。」
"So I couldn't even kill myself the way I wanted to."
「なので、俺が望んだ方法で自殺することさえできなかった。」
"I had power over nothing."
この言い回しも、やさしい単語の組合せなのだが、意味が分かりにくい。"over nothing"は「つまらないことに」を表す。例えば、次のような使い方をする。
"She got exited over nothing."
「彼女はつまらないことに興奮した。」
従って、ここでの"I had power over nothing."の意味は、
「何もできなかった。」
独白はまだ続くが、このあとは映画を観て欲しい。

最後の場面では、中年太りの男性ではなく、見慣れたトム・ハンクスに戻っている。
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今回の会話の部分には、なじみの少ない慣用句が二つあった。Googleで検索すると、英語を母国語としている人も質問しているので、知らない人も多いようだ。このような慣用句に出くわすと、何を言っているのかなあと考えだすために、次の言葉が入ってこなくなる。ついていけない状態に陥るのだが、聞き流して、前後関係から理解することが肝要だ。