bitterharvest’s diary

A Bitter Harvestは小説の題名。作者は豪州のPeter Yeldham。苦闘の末に勝ちえた偏見からの解放は命との引換になったという悲しい物語

ジューシーな肉を求めてターキーを焼く

新型コロナウイルスは、大人数で集まる機会をみんなから奪ってしまった。以前はこの時期になると、普段は会えない家族・親戚、友人・知人たちとクリスマス会・忘年会・新年会といっては、集まったものであった。しかし急拡大したウイルスの蔓延によって、一年前は全く開催することができなかった。この冬は、幸いなことに感染者が極めて限られていたので、その間にということで人数を制限していくつかの会が設けられた。そして我が家でも、子供たちの家族を招いてのクリスマス会は、それぞれの家庭ごととした。

クリスマス会では、ターキーを焼くことが恒例になっている。30年前に横浜に引越ししたとき、隣家にもイギリス生活が長かった人が同時に引越ししてきたので、その奥さんからイギリスの伝統的なターキーの焼き方を学んだ。それ以来、ずっと伝統的な焼き方を踏襲してきた。

しかし昨年は子供や孫たちとも会えなかったので、ターキーを焼くことは中断せざるをえなかったが、今年は再開することとなった。それを話したところ、アメリカ人の友人・知人から、新しい焼き方があると示唆された。健康志向のAさんからは、腹の中に詰め物をしない方がよいと忠告された。ターキーが生煮えになる恐れがあるとのことだった。味を求めるBさんからは、ぱさぱさになりがちな胸肉を、ジューシーに焼く方法を教えてもらった。

今回はターキーを2回焼く機会が得られたので、アメリカ流を取り入れて、もっとおいしくなる調理法を開拓することにした。Bさんからの方法は、➀胸肉を下にして焼く、②プラスティックラップで肉をしっかりと包みさらにアルミホイルで包む、である。➀は、重力によって肉汁が下に落ちていくのを利用して、胸肉に吸収されるのを狙っている。②は、水分が抜けるのを避けるもので、蒸焼きに近い。②については、プラスティックラップが高温に耐えられるのかが心配になった。ワシントンポストの記事によれば、家庭用のプラスティックラップは、業務用と異なり、耐熱性に問題があるので避けたほうがよいとあったので、この方法は残念ながら断念した。

Aさんが教えてくれた詰め物(stuffing)をしないという方法と、Bさんが教えてくれた胸肉を下にして焼く(upside-down turkey)という方法とを利用して、新しい調理法を編み出した。この方法の特徴は、➀味を良くするために、マリネをしっかりする、②ジューシーな胸肉を得るために、前半は胸を下にして、後半は逆さにして、始めから終わりまで低温でじっくりと焼く、である。

かつてオーストラリアのアデレードに滞在していたときに、19世紀前半にドイツ人がはじめて入植し、現在では歴史的な町となっているハーンドルフ(Hahndorf)を訪ねたことがある。古い町並みの通りに、古い造りの瀟洒なお店が並び、開拓時代に戻ったかのような幻想を抱かせてくれた。小さなお店の中に入って、店員の人と軽い会話をしたり、珍しいお土産物を見たりと、楽しいことの多い街だった。始めてみた光景は、お店の外で子ブタを丸ごと焼いていることであった。鉄棒に刺した豚をゆっくりとまわしながら、下からの弱い火で何時間もかけて焼いているのが、今でも目に焼き付いている。今考えると、これがお肉を美味しく焼く秘訣だったのだろう。

それでは今回のレシピを簡単にまとめておこう。

1.マリネ
➀ターキーの重量の20%量のブライン液(5%の塩水)を作る。今回はターキーの重さが3.38㎏だったので、ブライン液は水676cに対して塩34gであった。
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②1~2%の砂糖水を加え、さらに胡椒、ニンニク、スライスした香味野菜(玉ねぎ、セロリ、にんじん、パセリ)を加えた。
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③ビニール袋にターキーとブライン液を入れ、空気が入らないように口を縛り、冷蔵庫で1日マリネした。
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変更点:これまではブライン液は、水・塩・砂糖で作っていたが、今回は風味を持たせるために、香味野菜を加えた。

2.ロースト
➀焼く前の2時間前に、ターキーを冷蔵庫より取り出す。
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②ターキーの水分をふき取る。
③香味野菜(玉ねぎ、セロリ、にんじん、パセリ)とハーブ(タイム、ローズマリー)を深皿に並べ、さらにターキーの腹にも詰める。
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④ターキーにバターを塗る(マリネしてあるので、塩、胡椒はつけない)。
⑤胸肉を下にしてターキーを深皿に置く。深皿の空いているところにジャガイモ、アルミホイルで包んだ砂肝・首を置く。
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⑥深皿を電子オーブンに入れ、130℃・1時間半に設定して、焼きはじめる。
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⑦ターキーを反対にし、ポップアップタイマーが飛び出すまで焼く(1時間半が目途)。
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⑧電子オーブンより取り出し、アルミホイルをかけて1時間ほど蒸す。
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事件:130℃だと、ターキー1kgあたり1時間が目途となる。今回はおよそ3㎏だったので、トータルの焼き時間は3時間が目途となった。ターキーには通常ポップアップタイマーがついているのだが、今回はなぜかついていなかった。仕方がないので、前半の焼き上げの最中に近くのお店に行って、ローストなどに使える温度計を購入した。そして合計で3時間焼いたところで胸肉の奥まで刺して計ったら85℃であった。75℃が適温、詰め物をした時は85℃が良いとされている。少し焼き過ぎのような気もしたが、食べて確認するしかなかった。
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変更点:これまではクリや砂肝・首などを詰めていた。しかし最近は詰め物は避ける傾向にあるという話を聴いて、今回は風味を出すために香味野菜を詰めた。さらに胸を下にして焼いた方がよいという忠告もあったので、前半は胸を下にし、後半は胸の部分をこんがり焼くためにひっくり返した。また、低温で焼くために最初から最後まで130度にし、温度の変化を避けるために電子オーブンのドアーを開けて肉汁をかけることはしなかった。

3.グレービーソース
従来の方法を踏襲して、深皿に溜まっている肉汁を鍋に移し、さらに適量のウイスキーとマギーブイヨン1個を加えて沸騰させ、塩と胡椒で味を調えた。

4.食卓へ
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折角訪問してくれたお客さんには、いつも一番おいしい部位を分け与えているので、ここ数年、我々夫婦は胸肉以外は食べたことがない。この部分は、その日の出来・不出来がもっとも反映されるところである。包丁を入れたときに、肉が滑らかに切れたので、水分に富んでいるという感触を得た。そしてその期待を違えることなく、胸肉は、グレービーソースをつけなくても美味しく、風味も感じられ、肉もジューシーで柔らかかった。さらにグレービーソースを加えると、これまでになく香ばしく、とても美味しく頂けた。かなりの時間をかけての研究努力が報われ、また家族にも喜んでもらえ、とても良かった。