2. 随伴
ストリング・ダイアグラムでの表現にも慣れてきたので、いきなりジャンプして、圏論の真髄ともいえる随伴について考えることにしよう。
2.1 随伴の定義
ウィキペディアでは、随伴を次のように定義している(但しここでは記号は変えてある)。
圏\(\mathcal{C}\)と圏\(\mathcal{D}\)との間の随伴とは、二つの関手
\begin{eqnarray}
L: \mathcal{D} \rightarrow \mathcal{C} \\
R: \mathcal{C} \rightarrow \mathcal{D}
\end{eqnarray}
の対であって、全単射の族(集合)
\begin{eqnarray}
Φ_{A,B}:{\rm Hom}_\mathcal{C} (LB,A) \cong {\rm Hom}_\mathcal{D} (B,RA)
\end{eqnarray}
が変数\(A\),\(B\)に関して自然となるものをいう。なお\(L\)は\(R\)の左随伴、\(R\)は\(L\)の右随伴という。これは図1のように表すことができる。
別の言い方をすると、任意の射\(f \in {\rm Hom}_\mathcal{C} (LB,A) \)を取りだしたとき、これに対して\(Φ_{A,B}f=g\)となるような\(g \in {\rm Hom}_\mathcal{D} (B,RA)\)が唯一つ存在し、逆もまた真であるといえる。
これからは\(f\)や\(g\)のように、射の集合の1要素を扱うことになるので、これをストリング・ダイアグラムでどのように表現できるかあらかじめ議論しておこう。
\(h^A B = {\rm Hom}(A,B) \)が集合(族)であるとする。集合が便利な点は、それが要素を有するということである。そこで射の集合\(h^A B\)からの任意の一つの射を\(fA\)と表すことにしよう。\(f^A\)と表してもよいのだが、ここでは\(fA\)とし、これは\(A\)をドメインとした射\(f\)ということにする。\(f\)のコドメインを\(B\)とすると、\(f \in h^A B\)は図2のストリング・ダイアグラメで表すことができる。丁度、集合の要素を表現したものと同じような感じである。
感覚的にあっているというだけでは、数学としての扱いができないので、この表現に矛盾がないかを調べよう。図3に示すように、一つの対象だけを有する圏\(1\)から、圏\(\mathcal{C}\)の対象\(A\)に対して関手を張る。このとき一つではなく、2つの関手\(*,A\)を張ったとし、この関手間の自然変換を\(A\)としよう。
これをストリング・ダイアグラムで表すと図4となり、図2の表現には問題がないことが分かる。これで集合の要素としての射を表すことができるようになったので、随伴に関わる性質を考えていこう。
随伴に関しても、図5に示すように、圏\(1\)から、圏\(\mathcal{C}\)の対象\(A\)への関手\(A\)と、圏\(\mathcal{D}\)の対象\(B\)への関手\(B\)を設けて議論を進めることができる。
任意の射\(f \in h^{LB} A \)を取りだすと、これに対して\(Φ_{A,B}f=g\)となるような\(g \in h^B RA \)が唯一つ存在するという随伴の定義は、図6に示すように、\(B\)から出発して\(A\)に到達する経路は二つあるが、これらは可換であると言い換えることができる。
このため、任意の\(f \)に対して、唯一つの\(g \)が存在するということは、(1) \(LB\)をドメインとして\(f\)を施して得たコドメイン\(A\)と、(2) \(B\)をドメインとして\(g\)を施して得たコドメインを関手\(L\)によって\(\mathcal{C}\)の側に移した\(A\)とには、(1)と(2)とも\(B\)からスタートして同じところに至ると言い換えることができるので、ストリング・ダイアグラムで表すと図7のようになる。
それでは図7の右側を変形すると図8になる。ここで(1)はスタート。(2)は\(LgB\)を詳細にしたもの。(3)は\(ε: LR \rightarrow I_\mathcal{C}\)で置き換えたもの。(4)は(3)を見やすくしたものである。
逆の場合についても考えてみよう。今度は任意の射\(g \in h^B RA \)を取りだすと、これに対して\(Φ^{-1}_{A,B}g=f\)となるような\(f \in h^{LB} A \)が唯一つ存在するという場合である。図9に示すように、\(B\)から出発して\(RA\)に到達する経路は二つあるが、これらは可換である。
前と同じようにこの関係をストリング・ダイアグラムで示すと図10となる。
前と同じように右側を変形すると、図11を得る。ここでは(2)から(3)に移行するときに、\(η: I_\mathcal{D} \rightarrow RL \)を用いた。
ここで得られた\(ε,η\)を用いても随伴を同じように定義することができる。これについては次の記事にしよう。