bitterharvest’s diary

A Bitter Harvestは小説の題名。作者は豪州のPeter Yeldham。苦闘の末に勝ちえた偏見からの解放は命との引換になったという悲しい物語

随伴関手 - 随伴の別定義

7.7 随伴の別定義

1)別定義

随伴の定義にはこれまでと異なる方法がある。それは次のように定義される。

\(\fbox {随伴の定義2:}\)
二つの局所的に小さな圏\(\mathcal{C},\mathcal{D}\)において、関手の対\(R: \mathcal{C} \rightarrow \mathcal{D}, L: \mathcal{D} \rightarrow \mathcal{C}\)が次の条件を満たす時そしてその時に限り、随伴であるという。
\begin{eqnarray}
\mathcal{C} (L(Y),X) \cong \mathcal{D} (Y,R(X)) \\
\end{eqnarray}

これを、下図に示す。
f:id:bitterharvest:20181211153230p:plain

もう少し、詳しく説明しよう。

まず、定義をするための準備をしよう。今、二つの圏\(\mathcal{C},\mathcal{D}\)からそれぞれターゲットとなる対象\(X\)とソースとなる対象\(Y\)を適当に選んだとしよう。そして、ソースである対象\(Y\)を\(L\)によって、\(\mathcal{C}\)に写像したとしよう。これにより、二つの対象\(L(Y),X\)の間で、\({\rm Hom}\)集合\(\mathcal{C}(L(Y),X)\)を定義することができる。

同様にして、ターゲットである対象\(X\)を\(R\)によって、\(\mathcal{D}\)に写像したとしよう。これにより、二つの対象\(Y,R(X)\)の間で、\({\rm Hom}\)集合\(\mathcal{C}(Y,R(X))\)を定義することができる。

それでは随伴の定義をしてみよう。関手の対\(L,R\)が随伴の時かつその時に限り、二つの\({\rm Hom}\)集合\(\mathcal{C}(L(Y),X)\)と\(\mathcal{D}(Y,R(X)))\)は同型
\begin{eqnarray}
\mathcal{C}(L(Y),X) \cong \mathcal{D}(Y,R(X))
\end{eqnarray}
である。即ち、\(X,Y\)に対して自然である。

ここで、自然であるとは、\(\mathcal{C}\)から\({\rm Hom}\)集合の圏\({\rm Set}\)に対して、次の二つの関手
\begin{eqnarray}
X \rightarrow C(L(Y), X) \\
X \rightarrow D(Y, R(X))
\end{eqnarray}
の間に自然変換があり、さらに、
\(\mathcal{D}\)から\({\rm Hom}\)集合の圏\({\rm Set}\)に対して、次の二つの関手
\begin{eqnarray}
Y \rightarrow C(L(Y), X) \\
Y \rightarrow D(Y, R(X))
\end{eqnarray}
の間に自然変換があり、そして、自然変換は可逆(invertible)であることである。

これが、随伴の別定理である。

これと、今までに示してきた定義(下記に示す)が同一となる。
\(\fbox {随伴の定義1:}\)
二つの局所的に小さな圏\(\mathcal{C},\mathcal{D}\)において、関手の対\(R: \mathcal{C} \rightarrow \mathcal{D}, L: \mathcal{D} \rightarrow \mathcal{C}\)が三角恒等式を満たす次の射\(ϵ,η\)を有する時、随伴であるという。

\begin{eqnarray}
ϵ : L \circ R \rightarrow I_\mathcal{C} \\
η : I_\mathcal{D} \rightarrow R \circ L
\end{eqnarray}

それでは、二つの定義が同じであることの証明の概略を示そう。

2)証明の概略

定義2から定義1を導いてみよう。

同型は、任意の対象\(X\)に対して働くので、\(X=L(Y)\)としよう。そうすると、
\begin{eqnarray}
\mathcal{C}(L(Y), L(Y)) \cong \mathcal{C}(Y,R(L(Y))
\end{eqnarray}

これより、左辺は少なくとも一つの射、即ち、恒等射\(I\)を持たなければならない。自然変換は恒等射を、\({\rm Hom}\)集合\(\mathcal{C}(Y,R(L(Y)))\)の一つの要素に写像する。ここで、\(I\)を挿入すると、\(\mathcal{C}(I(Y),R(L(Y)))\)の中の一つの要素にとなる。\(Y\)は任意なので、これは、まさしく、\(η : I_\mathcal{D} \rightarrow R \circ L\)と同じである。

同じように、\(ϵ: L \circ R \rightarrow I_\mathcal{C}\)を得ることができる。

また、二つの自然変換、即ち、
\begin{eqnarray}
X \rightarrow C(L(Y), X) \\
X \rightarrow D(Y, R(X))
\end{eqnarray}

\begin{eqnarray}
Y \rightarrow C(L(Y), X) \\
Y \rightarrow D(Y, R(X))
\end{eqnarray}
が可逆であることから三角恒等式を導くことができる。

逆に定義1から定義2も導いてみよう。
ここでは、片方(\(\mathcal{C}(L(Y),X)\)または\(\mathcal{D}(Y,R(X))\))の射が定まった時に他方(\(\mathcal{D}(Y,R(X))\)または\(\mathcal{C}(L(Y),X)\))の射が一意的に定まることを示せばよい。

そこで、\(f\)を\(\mathcal{C}(L(Y),X)\)の任意の射としてみよう。これを関手\(R\)を用いて\(\mathcal{D}\)上に持ち上げると、
\begin{eqnarray}
R \circ f : R(L(Y)) \rightarrow R(X)
\end{eqnarray}
となる。
そこで、随伴の定義1での射\(η\)を用いると
\begin{eqnarray}
η: I_D \rightarrow R \circ L \\
η_X: I_D(Y) \rightarrow R \circ L (Y) \\
η_X: Y \rightarrow R \circ L (Y)
\end{eqnarray}
を得る。

従って、
\begin{eqnarray}
R \circ f \circ η_X: Y \rightarrow R (X)
\end{eqnarray}
となる。\(\phi_x = R \circ f \circ η_X\)とすると、
\begin{eqnarray}
\phi_X: Y \rightarrow R (X)
\end{eqnarray}
が一意に定まることが分かる。

同様に、\(\mathcal{D}(Y,R(X)\)の任意の射に対しても、\(\mathcal{C}(L(Y),X)\))の射が一意的に定まることが分かる。そして、三角恒等式を利用して、二つの自然変換が可逆となることを示すことができる。

これにより同型であること、即ち、
\begin{eqnarray}
\mathcal{C}(L(Y),X) \cong \mathcal{D}(Y,R(X))
\end{eqnarray}
を導くことができる。