bitterharvest’s diary

A Bitter Harvestは小説の題名。作者は豪州のPeter Yeldham。苦闘の末に勝ちえた偏見からの解放は命との引換になったという悲しい物語

家族システムの変遷(V):『中世武士たちの経済活動と基盤構造』について話しました

恒例のこととなったがある歴史のサークルで今年も「家族システム」に関連して発表を行った。退職後に始めた歴史の勉強も早いもので7年目となった。大学生に置き換えると、卒業したあと大学院に進んで修士論文を書く時期だろう。いまさらながらという気もするが、学校教育はとても効率的で必要な情報を過不足なく与えてくれるものだと感心している。それに反して今回の独学は、好き勝手なことができる代わりに、重要な事項がすっぽりと抜けていることが多く、あっちこっちに寄り道をしている感は否めない。

高校時代には、社会科は4科目の中から3科目を選択することになっていて、日本史は選ばなかった。大学受験は世界史と地理。日本史については、中学生と同じレベルの知識しかなく、退職後の勉強は一からのスタートだった。しかし学生時代の勉強と異なり、退職後の勉強は楽しい。特に面白いのは、進歩の度合いを客観的に見られることである。学生時代はともすると仲間との競争の面が強く、相対的にどれだけ理解が進んでいるのかを見がちであった。これに対して今回の日本史の学びは、どれだけの用語を脳に埋め込み、それらの相互の関連をどれだけ理解しているかなど、知識を構成していくシナプスの形成過程を客観的に観察することができ、とても面白い経験をしている。

発表に用いた原稿は下記のものだが、これだけだと硬い話になってしまう。特に聞き手は「うとうと」とすることが得意な高齢の方々が多い。しかし彼らはNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」には興味を持っている。そして小栗旬が演じる義時が、「あんなに優しかったのに、この頃は冷酷になったので、嫌いだ」と思い始めているようだ。そこで覇権を目指さざるを得なくなった人の不条理を織り込みながら話をした。

織り交ぜる材料に使ったのは、政治学ミアシャイマーの『大国政治の悲劇』である。とても簡単に説明すると、「国家間の紛争を抑止するような機関が存在しないアナーキーな世界では、大国は生き残りをかけてその国の体制に関わらず、覇権国を目指す」である。中世は自力救済の時代で、同じようにアナーキーな世界と考えてよい。御家人たちは生き残りをかけて、その人が優しい人かそうでないかに関係なく、覇権者を目指すという味付けをした。

発表は80分と長い時間だった。やはり眠りかける人もいたが、興味を引く話になると目を覚ましてくれた。中には食い入るように聞き入ってくれた方もいた。好評だったと思う。コロナが心配だったので二次会は遠慮したが、たくさんの人から感想を聞けなかったことが残念であった。